新川帆立著『ひまわり』(2024年11月15日幻冬舎発行)を読んだ。
幻冬舎による特設サイトの内容紹介
(このサイト、試し読みはもちろん、帆立さん直筆のあらすじ漫画が読め、著者インタビュー動画もある)
おしゃべりと食べることが大好きな33歳のひまりはある夏の日、出張帰りに交通事故に遭い、頸髄を損傷してしまう。意識は明瞭。だけど、身体だけが動かない。
過酷なリハビリを続けるも突きつけられたのは厳しい現実だった。「復職は約束できない。できればこのまま退職してほしい」。途方に暮れ役所で就労支援の相談をすると、すすめられたのは生活保護の申請。
私は人の役に立てるのに、どうしてその力を発揮させてもらえないの──?
ひまりは自立を目指し司法試験受験を決意する。思い通りにならない身体でロースクールに通い始めるが、次々と壁が立ちはだかり……。
バリバリのキャリアウーマンだった30代の「朝宮ひまり」が、交通事故による脊髄損傷で首から下がほぼ動かなくなり、話しは出来るが、手足がまったく自由にならない状態になった。
しかしそれでも、社会のお世話になるだけでなく、人に助けてもらってでも、まだ残っている能力があるのだから、それを使って、働きたいと奮闘する話。
まず根本的に四肢麻痺についてどういうことが出来て、どういうことが難しいのか、日々の生活で必要になることは何かを、私は知らなかった。
脊髄損傷で自律神経が働かず、排便・排尿・発汗・血圧をコントロールできなくなる。たちえば、肩から下で汗をかけないため、身体に熱がこもりやすい。また、寝ているところから身体を起こすと、血圧が低下してぼうっとし、時に意識をうしなう。このため、まず第一段階として座るための苦しい訓練が必要。
首から下がほとんど動かせなくなったひまりのリハビリ内容のかなり詳しい説明が続く。
元の職場への復帰を拒否され、職探しは、24時間介護者同伴が必要ということだけで門前払い。
そして、幼馴染のレオの一言から、障害者を支援する弁護士になるために、司法試験に挑戦。なにやらやたら複雑な試験問題例に悩む。
本書は宮崎日日新聞など23紙に連載された作品に加筆、修正したもの。
私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)
芥川賞はもちろん、直木賞を受賞できるような深みのある文芸的名作だとは思わない。しかし、
読みやすい
482頁の大部だが、描写が分かりやすく平易で、スイスイと読める。幾つもの厳しい現実の壁にぶつかり、不幸な主人公が障壁を乗り越えていく話なのだが、根性物にありがちな悲壮感は薄く、明るい自然なタッチで前向きに進んでいくので、爽やかな気持ちで読み進められる。辛い現実に苦しむ人からは反感を買うかもしれないが、ある種のゲーム感覚で読める。まあ、その点が帆立さんの長所であるが、賞を取るにはマイナスかも。
首から下が動かない人の生活が想像できる
重い障害を持つと、生活のすべてに介護が必要になる。障害者の自立には、回りの複数の人を巻き込んでチームを作っていく必要があることが理解できた。支えてくれるチームの人がどんなに心配りしてくれても、当人にストレスが生じるのは防げない。しかし、それでも一人では何もできないのだ。
高齢に達した私自身も遠からず支えを受けることになる。快く、ありがたく、素直にならなくてはと、想いを馳せた。
司法試験というものが、実際にいかに大変かがわかる
単に法律条文の暗記でないのはもちろんのこと、しっかりした文章理解、広い社会常識、高めの知能指数などが必要なのだろうと実感できた。
謝辞の筆頭は、菅原崇弁護士。頚髄を損傷し、四肢麻痺の障害を負いながら、日本で初めて音声認識ソフトを使用して司法試験を突破した弁護士だ。しかし、「モデル小説」ではなく、主人公の性格や思考、友人関係などすべてフィクションだ。