気が付くと私はすっかり「クラウドな人」になっていた。つまり、気付かずにクラウドコンピューティングを利用し、それ無しでは成り立たない生活をしていた。多分パソコンや携帯などIT機器を使っている多くの人は、大なり小なり気付かずに「クラウドな人」になっているはずだと思う。
クラウドコンピューティングとは
ご存じない読者の為に; クラウドコンピューティングとはWikipediaによれば「インターネットをベースとしたコンピューターの利用形態で、ユーザーはコンピューター処理をネットワーク経由でサービスとして利用する」と定義されている。(簡単のため以下クラウドと短縮する)
クラウドが注目され始めたのはつい最近で、私が早期退職した2003年頃はAmazon.comはあったが、まだクラウドコンピューティングとして脚光を浴びてなかった。IT業界に従事していたにもかかわらず、私は初めて聞いた時クラウドが何のことか分からなかった。
その後、パソコンの先に繋がっている「雲」みたいなものという意味だと分かり成る程と思った。IT世界特有の訳の分からない用語でないことに好感を持った。当時もはや関係の無い先端技術のように感じた。だが、気が付けばクラウド無しでは生きて行けないインフラになっていた。
気が付けば世の中クラウドばかり
私の初めてのクラウド体験はAmazon.comで本やCDを買った時だと思う。現在では多くの通販はクラウド無しには成り立たない。又、このブログ記事を書く時やそれ以外でも全ての「調べ物」をする時、代表的クラウドであるGoogleやYahooの検索エンジンをフルに活用する。
通販や情報検索だけではない、銀行や証券会社のオンライン取引もクラウド技術が取り入れられている。税金支払いや日々の買い物も関わりがある。世界の主要証券市場の株価や商品価格も机の上の液晶ディスプレイに表示され、株式や投信の売買がクラウド上で可能だ。
私は東京と田舎の間を行き来してする生活をしているが、クラウドのお陰でどこにいてもメール送受信から買物、税金支払い、調査や投資など大抵のことが普通に出来る。従来通りなのは郵便や荷物など限られた「形あるもの」のやり取りと、肉声で語り自分の身体を移動させる手段だけだ。
コンテンツビジネス総倒れか
実用的なものだけではない。音楽や書籍までクラウドに取り込まれ、ビジネススの形を変えてしまった。結果的にそれは私の生活スタイルにも影響しそうだ。音楽ダウンロードが増えた結果、近年CDが売れなくなったそうだ。DVDレンタルも具合が悪いそうだ。タワーレコードが駄目になった時は驚いたが、この夏ブロックバスターが倒産した時は「お前もか」と思った。
私にとってもっと個人的に影響を受けそうなのは、書籍が電子化されるトレンドだ。米国ではビジネスモデルの変化がドラスティックな形で現われる。CD、DVDと共に代表的コンテンツである本の米国最大手販売のバーンズ&ノーブルも倒産した。新聞社の経営が悪化し地方新聞が倒産、大手も人員整理が続いているのも衆知のことで、同じ延長線上にある。
クラウドは中古市場を消滅させる
コンテンツが光ディスクや書籍など「形あるもの」に焼き付け或いは印刷されて表現されている間、私は中古市場を積極的に活用してきた。だが、デジタル記録されクラウドの大容量記憶装置に格納されると、将来中古市場に出てこなくなる可能性が高いと心配している。
いつもの大胆に占うと、究極のクラウドは「形あるもの」を不要にするだろう。貴重な音楽や書物の絶版がなくなり、売れない少数派のコンテンツが世に出る機会を与える一方で、中古市場を消滅させるだろう。私の「周回遅れの読書録」の主要ソースである古本屋も消滅するのだろうか。
蛇足: 私的クラウド歴史
以下は読み飛ばしてください。私がクラウドを意識するようになった個人的なきっかけです。
IT会社を退職後の7年間でクラウドコンピューティングが企業活動だけで無く、知らないうちに我々個人の生活のあり方を変えるほどに深く関わっていることに最近気付いた。
私は①高速コンピューター、②大容量記憶装置、③高速通信回線、④アプリケーションの仮想化、⑤セキュリティ(情報の保全)の技術進歩が新たなコンピューターの利用法を生み出したと感じる。私の理解は「コンピューター共用技術」と言った極めて専門的な頭の固いもので、最近までそれが個人生活に及ぼす影響といった視点で理解しようとしなかった。
退職して頻繁に田舎の実家に行くようになり、実家でも東京宅と同じようなIT環境を作り長期滞在できるようにした。最初は東京宅のPC環境をノートパソコンにコピーして実家で使った。だが、ノートパソコンを持って飛行機で往復するのはかさ張るし重い。家庭内イントラネット経由でのPC環境のコピーは時間がかかり、前日から準備し効率が悪く大変だった。
そこで、光ディスク(CDRW)と磁気ディスク(ICカード型HDD)を組み合わせて利用することにした。光ディスクはコンパクトだが容量不足で、PC環境のホンの一部しか収納できなかった。バックアップを兼ねて当時100倍以上の容量がある磁気ディスクを使った。高価だが読書き速度は十分早かった。これで、ノートパソコンを持ち運ぶ労苦から開放された。
そうしているうちに、USBメモリーが予想もしない速さで技術進歩し、記憶容量が増え手軽に買えるようになった。USBメモリーはパソコンに差込みさえすればディスクより簡単で高速に読書きできるし、容量もGBクラスあって十分足りた。これでパソコン環境のコピーは手段の問題ではなく、何を移行させるか内容だけの問題になった。
それでもUSBメモリーを紛失とか故障する万が一のケースに備える必要があった。この問題を解決したのがクラウドコンピュティングだった。野口悠紀雄氏はGmailの「下書き」を利用すればどこでも仕掛かり中の文書を取り出して編集できるとテレビか本で勧めるのを見て、ピンと来た。
その後、Googleドキュメントなどのサービスが追加されデジタル化されたコンテンツなら何でもどこでもアクセスでき、閲覧から文書作成・編集など仕事も趣味も出来るようになった。野口氏のヒントをきっかけに私はクラウド利用度を飛躍的に高めた。今後も「クラウドな人」の道を歩んで行きそうだ。Let’s get cloud! ■