中国は日米関係の接着剤
オバマ大統領を18年ぶりに国賓として招いた日米首脳会談は、TPPで合意を得ることは出来なかった。しかし、尖閣列島の防衛義務や集団的自衛権見直しの支持を引き出して安全保障面で日米同盟の重要性を再確認した。安倍内閣の外交スタッフが満点の出来という成果が得られたとの評価が報じられている。例によって少し視点を変えて私の誤解を恐れず大胆な見方を紹介したい。
メディアが指摘するようにオバマ大統領の性格を反映してか、ビジネスライクなガチンコ首脳会談だった。だが、両首脳の目は全く同じ方向を見ていたと思う。それは中国だ。30年には米国を凌ごうかという経済力と膨張する中国とどう立ち向かうか、これが首脳会談のメインテーマだった。両国の目線の高さの差から生じる多少の齟齬はあったとしても大筋では合意した。日本は直接中国から受ける脅威がある分だけ切迫感があり、それが満点という評価につながった。
そういう意味で安全保障の分野で中国が日米を結束させる接着剤の役目を果たしたと言える。だが必ずしも中国は対立する対象とは決めつけない米国の配慮があり、記者会見のオバマの中国に向けたメッセージは苦心の賜物であったと思う。中国の経済は潜在力を考えると余りにも巨大で、日米ともに如何に中国と共存していくか模索する時代が今後とも続くと予感させる、それが今回のメインテーマだったと感じた。それが米国の日本に対するメッセージでもあった。
親しくなくとも信頼する関係を作った
一方で、テレビが伝える両首脳の発言やボディランゲージからは、努力はしても互いに親近感を持っている様子は伺えなかった。私の印象ではオバマは安倍首相に対する信頼感は高まったと思うが、個人的に親しい関係を作ろうと努力した様には感じない(それでも鳩山元首相に比べれば雲泥の差だ)。これが微妙な政治判断を求められる状況で、連携してタイムリーで適切な意思決定をして世界をリードするとまではいかないだろうと思う。
いずれにしてもギクシャクしていた日米関係が修復された、少なくとも見かけ上は、と感じる。TPPの交渉は難航したが、夫々に国内事情があるので評価は分かれる。私はやむを得なかったと思う。オバマは国内の強硬派を抑える力はないという麻生副総理のシニカルな見方が現実的だと思う。米国内ではオバマ大統領は死に体寸前なのは誰もが認める所だ。安倍首相も支持母体の既得権益に対しては極めて慎重な対応をしている。
関係修復した訳
今回、米国はTPP交渉の果実を得ることなく、”タダ”で日本に有利な安全保障上の言質を与えたのか。実は、方向転換した米国の価値観からいえば決してタダではなかったと私は思う。上記のようにターゲットは中国であり、その意味で最大の目的は達したと言える。多くの日本メディアが首脳会談の前にTPPの損得を最大テーマと報じたが、その見方は視野が狭かったことが会談の後明確になった。いつものことながら既得権益団体と同じ目線と発想では情けない。
関連して見逃せないのは、東南アジア諸国が日本をパートナーとして最も重要な国と評価している(日本経済新聞4/25、外務省が香港の調査会社に調査依頼した結果)事実だ。中国でも米国でもない。背景は近年の中国の強圧的な姿勢と、アジア最重視というオバマ外交戦略が信頼されてない現れだが、同時に安倍首相の積極的なアジア外交の成果でもある。米国のアジア外交は日本の力がないと上手く行かないという判断が関係修復の背景にあったと感じる。■