後遺症というほどでは無いが、自転車事故とはいえ指脱臼と左頬6針縫合に擦過傷数ヶ所あると田舎の独り暮らし老人には厳しい。右人差し指に力が入らないと包丁はうまく使えない、包帯で巻いた両手で水を使う料理は難しい。それでも一口大に切って冷凍していたジャガイモや南瓜を使って煮物を作り食事は何とかなった。
明日は帰京するというタイミングが良かったのかどうか。とにかくフトンや洗濯物を干し、セットしたばかりのコタツを仕舞い、家具や食器から古新聞まで片付け物をした。鏡を見ると片付けるべきは私自身だった。救急病院の治療以来、風呂に入らず髭が伸びて酷い状態だ。宅急便で読み残した本や衣類を送った後、散髪に行った。
包帯姿の顔を見せてやってくれるかと聞き、やれるところだけやるのでよければとの返事、じゃあ頼むと二つ返事でお願いした。髭を剃るとそれだけで随分印象が変わった。だがシャンプー(仰向けをバックシャンと言うらしい)は出来ないので隣の美容院に行ってくれといわれた。
美容院に入ると一気に華やかな感じだった。私がお店に入って来た時、何でよれよれのジーサンが来たのと思ったでしょう、と聞くと彼女は素直にうなずいた。事情を話すと頭を洗ってくれることになった。床屋のシャンプーと全然違い、若い女性のしなやかな手でマッサージをするように洗ってくれとても気持ち良かった。さっぱりしたが、シャンプーで見かけは改善しなかった。
こうなると、サイクリングで汗をかいた後を含め2日間風呂に入ってない私自身の臭いが気になった。次に薬局に行き風呂に入れない人の為のウェットタオルを買った。実は今、書斎のパソコンに向かいながら部屋にこもった自分の臭いに鼻を曲げている。この後、身体を拭く積りだ。
薬局の次は、馴染みのカフェに行きマスターに別れの挨拶に行った。月曜日が定休日なのを忘れていたが、車が止まっているのを見つけた。今月から定休日を客の少ない火曜日に変更したという。ここだけでなく、宅急便から薬局まであらゆるところでみっともない格好の事情を説明した。
寧ろ、見かけの酷さを利用して言訳をし、同情を買う会話をした、それでサービスを買ったという方が正しい。全く狡猾なジーサンだ。それが田舎の独居老人が助けられて生きていく術かと思う。一人で怪我に沈んでいると却って辛い。コーヒーを飲んだ後、最後の散歩をした。よく見かけるが口を聞いたことの無いオバサンまでもが同情してくれ、子連れの若いママと軽口を叩いた。包帯をしたパンダ眼は意外にやり方次第で使える。それにしても臭い。■