2回戦は12時20分からなので、ちょっと早いが昼食に向かう。
外は雲一つない快晴で、太陽がギンギラギンだ。日陰者にはまぶしすぎる。
浅草寺を突っ切ったが、ものすごい人出だ。東京の一大観光地だからこのくらいの人出は当然だが、外国人の比率が高くなっているのと、浴衣姿の女性が増えた。これは近隣でレンタル浴衣をやっているからで、観光地は商魂たくましい。
私はお参りもせず、いつものラーメン屋に向かう。ちょっと迷ったが、千石ラーメンに着いた。ここでワンタンメンを食すのが私の定跡となっている。
…つもりだったが、表の看板に「みそラーメンと半チャーハンのセット」があり、入店後、それを頼んでしまった。
だが私はさっきまでワンタンメンを食べるハラだったから、どうも落ち着かない。
みそラーメンはみその色が出ているが、みそ味が薄い。でも野菜はふんだんに入っていたし、十分な栄養を摂ったことは確かだ。午後の弾みはついた。
会場に戻ると、声を掛けられた。Wパパ氏だ。Wパパ氏は数年間の外国任務を終え、先日、娘のHanaちゃんとともに帰国したのだ。
「おおう久しぶり! 帰国したって聞いてはいたけど」
「久しぶりです。大沢さんは別のチームから出てるって聞いて。日本ではいろいろあったらしいね」
「まあいろいろあるわね。Hanaちゃんはどうするの? 女流棋士になるの?」
「今B2にならないと女流棋士にはなれないみたいだから、そうなったら女流棋士をやらせる」
「すごいね。今はあきちゃんもNHK杯の読み上げやAbemaTVにも出てるし。もう一家安泰じゃないの」
片や外国勤務で、女流棋士とアマ女流名人を娘に持つエリートサラリーマン、片や職探しに奔走する独身男と、境遇は天と地の差だが、将棋を挟むことで、同等の会話ができる。ありがたいことだと思う。
2回戦は「将Give」と。青年主体の将棋チームだ。ところが、もう対戦時間は過ぎているのに、ウチの対局者がひとりも来ない。
たとえば木村晋介会長は階下でA氏らと昼食を摂っていたはずだ。それで遅刻はあり得ないのだが、これも将棋ペンクラブの味か。
みなが遅れて到着し、やっと対局となった。私はまたも大将で、振ってもらって先番となった。
ところが今度は、私の相手が席を外して戻ってこない。ほかの6人は対局を始め、相手の副将が「チェスクロックを進めてもいいですよ」と言うが、そうもいくまい。そもそもさっきはこちらが待たせたのだ。
相手が戻り、3分遅れぐらいで、大将戦も始まった。
▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩。私は振り飛車退治が好きなので、しめしめと思ったが、▲4八銀△3二銀あたりで、違うことに気付いた。今の若者は飛車を振る時角道を止めない。とすればこの進行は雁木か。
果たしてその展開になり、私は2筋で早々と角交換をする。△6三銀に▲4六歩。これがなかなかの手で、次の▲4五歩△同歩▲4四歩△同銀▲7一角の狙いがある。それを防いで後手氏は△6二玉と上がったが、これが予定の作戦とは思えなかった。
しかし後手氏も2筋に飛車を回し、△2五歩。私は▲2七歩と謝ったが、これでは1歩保持の優位性が消え、互角に戻ってしまった。
その後手詰まり模様になり、後手氏は△6二金~△5二金の一人千日手を繰り返す。
私は▲8八銀~▲7七桂~▲9八香と地下鉄飛車の狙い。
そして▲9九飛(第1図)に、後手氏は△2六歩▲同歩△同飛と来た。さらに▲3八金△2一飛(第2図)に、私が間違える。
第2図以下の指し手。▲9五歩△同歩▲同香△9八歩▲同銀△9五香▲9六歩△同香▲9七歩△2三香▲9四角△6二玉▲8三角成△2七香成▲3八銀(第3図)
第2図で▲9五歩の仕掛けが疑問だった。△同歩▲同香に、△同香なら▲同飛で先手優勢。もちろん後手氏は応じず、△9八歩と打った。これを▲同飛なら△2九飛成で、次の△8九角が厳しい。
私も△9八歩は読んでいたのだが、何とかなると思っていた。現実の厳しさにあ然としたわけだ。
しかし大事な社団戦である。将棋道場ならまだしも、他者に関わる社団戦なら、もっと慎重に指せよ、ということだ。本局の私は緊張感がなく、どうかしていた。
本譜は▲9八同銀と取ったが、△9五香で香損。その香を歩の連打で取りに行っているのだからどうしようもない。
その間後手氏は2筋に香を据え、労せずして成った。▲3八銀は泣きの辛抱である。
第3図以下の指し手。△3七成香▲同銀△同角成▲同金△2八飛成▲3八香△2五桂▲2九歩△1九竜▲8四馬(第4図)
△3七成香▲同銀に、△同角成は当然。私でもこう指すところである。もうバカバカしくて指してられないのだが、社団戦だし、何より自分への不甲斐なさで、投了ができなかった。
それでも▲8四馬で、次の▲8五桂を楽しみにしたのだが…。
第4図以下の指し手。△8三歩▲同馬△3七桂成▲9五角△1八竜▲7三角成△5三玉▲6五歩△3八竜▲8七玉(第5図)
△8三歩が馬筋を変える好手だった。私は取るよりないが、△3七桂成で、またも駒損を重ねた。
第5図以下の指し手。△8一香▲9六玉△8三香▲同馬△7二金▲8四馬△8三銀▲6六馬△9五歩▲同玉△9四香▲8五玉△7三桂(投了図)
まで、後手氏の勝ち。
私にしては珍しく、詰め上がりまで指した。最後、△7三桂で△9三桂を願っていたのだからおめでたい。
感想戦を行う。「▲9五歩がマズかったか。でも△9八歩▲同飛に飛車成らせても何とかなると思ったんだよな」
「飛車成らせちゃダメですよね」
まあそれはそうである。その後も私は
「千日手にすべきだったかな。でも先手だからなァ」
とボヤく。つまり千日手回避を敗因にしようとしたわけである。
結局終盤までやったが、私のボヤキに嫌気が差したのか、相手がもういいでしょ、という感じで、感想戦を切り上げてしまった。私は自己嫌悪の持って行き場がない。
チームはというと、0勝7敗。これもちょっと経験したことのない数字だ。全敗は誰でもできる。私が将棋ペンクラブに参戦した意味が、なくなった。
(つづく)
外は雲一つない快晴で、太陽がギンギラギンだ。日陰者にはまぶしすぎる。
浅草寺を突っ切ったが、ものすごい人出だ。東京の一大観光地だからこのくらいの人出は当然だが、外国人の比率が高くなっているのと、浴衣姿の女性が増えた。これは近隣でレンタル浴衣をやっているからで、観光地は商魂たくましい。
私はお参りもせず、いつものラーメン屋に向かう。ちょっと迷ったが、千石ラーメンに着いた。ここでワンタンメンを食すのが私の定跡となっている。
…つもりだったが、表の看板に「みそラーメンと半チャーハンのセット」があり、入店後、それを頼んでしまった。
だが私はさっきまでワンタンメンを食べるハラだったから、どうも落ち着かない。
みそラーメンはみその色が出ているが、みそ味が薄い。でも野菜はふんだんに入っていたし、十分な栄養を摂ったことは確かだ。午後の弾みはついた。
会場に戻ると、声を掛けられた。Wパパ氏だ。Wパパ氏は数年間の外国任務を終え、先日、娘のHanaちゃんとともに帰国したのだ。
「おおう久しぶり! 帰国したって聞いてはいたけど」
「久しぶりです。大沢さんは別のチームから出てるって聞いて。日本ではいろいろあったらしいね」
「まあいろいろあるわね。Hanaちゃんはどうするの? 女流棋士になるの?」
「今B2にならないと女流棋士にはなれないみたいだから、そうなったら女流棋士をやらせる」
「すごいね。今はあきちゃんもNHK杯の読み上げやAbemaTVにも出てるし。もう一家安泰じゃないの」
片や外国勤務で、女流棋士とアマ女流名人を娘に持つエリートサラリーマン、片や職探しに奔走する独身男と、境遇は天と地の差だが、将棋を挟むことで、同等の会話ができる。ありがたいことだと思う。
2回戦は「将Give」と。青年主体の将棋チームだ。ところが、もう対戦時間は過ぎているのに、ウチの対局者がひとりも来ない。
たとえば木村晋介会長は階下でA氏らと昼食を摂っていたはずだ。それで遅刻はあり得ないのだが、これも将棋ペンクラブの味か。
みなが遅れて到着し、やっと対局となった。私はまたも大将で、振ってもらって先番となった。
ところが今度は、私の相手が席を外して戻ってこない。ほかの6人は対局を始め、相手の副将が「チェスクロックを進めてもいいですよ」と言うが、そうもいくまい。そもそもさっきはこちらが待たせたのだ。
相手が戻り、3分遅れぐらいで、大将戦も始まった。
▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩。私は振り飛車退治が好きなので、しめしめと思ったが、▲4八銀△3二銀あたりで、違うことに気付いた。今の若者は飛車を振る時角道を止めない。とすればこの進行は雁木か。
果たしてその展開になり、私は2筋で早々と角交換をする。△6三銀に▲4六歩。これがなかなかの手で、次の▲4五歩△同歩▲4四歩△同銀▲7一角の狙いがある。それを防いで後手氏は△6二玉と上がったが、これが予定の作戦とは思えなかった。
しかし後手氏も2筋に飛車を回し、△2五歩。私は▲2七歩と謝ったが、これでは1歩保持の優位性が消え、互角に戻ってしまった。
その後手詰まり模様になり、後手氏は△6二金~△5二金の一人千日手を繰り返す。
私は▲8八銀~▲7七桂~▲9八香と地下鉄飛車の狙い。
そして▲9九飛(第1図)に、後手氏は△2六歩▲同歩△同飛と来た。さらに▲3八金△2一飛(第2図)に、私が間違える。
第2図以下の指し手。▲9五歩△同歩▲同香△9八歩▲同銀△9五香▲9六歩△同香▲9七歩△2三香▲9四角△6二玉▲8三角成△2七香成▲3八銀(第3図)
第2図で▲9五歩の仕掛けが疑問だった。△同歩▲同香に、△同香なら▲同飛で先手優勢。もちろん後手氏は応じず、△9八歩と打った。これを▲同飛なら△2九飛成で、次の△8九角が厳しい。
私も△9八歩は読んでいたのだが、何とかなると思っていた。現実の厳しさにあ然としたわけだ。
しかし大事な社団戦である。将棋道場ならまだしも、他者に関わる社団戦なら、もっと慎重に指せよ、ということだ。本局の私は緊張感がなく、どうかしていた。
本譜は▲9八同銀と取ったが、△9五香で香損。その香を歩の連打で取りに行っているのだからどうしようもない。
その間後手氏は2筋に香を据え、労せずして成った。▲3八銀は泣きの辛抱である。
第3図以下の指し手。△3七成香▲同銀△同角成▲同金△2八飛成▲3八香△2五桂▲2九歩△1九竜▲8四馬(第4図)
△3七成香▲同銀に、△同角成は当然。私でもこう指すところである。もうバカバカしくて指してられないのだが、社団戦だし、何より自分への不甲斐なさで、投了ができなかった。
それでも▲8四馬で、次の▲8五桂を楽しみにしたのだが…。
第4図以下の指し手。△8三歩▲同馬△3七桂成▲9五角△1八竜▲7三角成△5三玉▲6五歩△3八竜▲8七玉(第5図)
△8三歩が馬筋を変える好手だった。私は取るよりないが、△3七桂成で、またも駒損を重ねた。
第5図以下の指し手。△8一香▲9六玉△8三香▲同馬△7二金▲8四馬△8三銀▲6六馬△9五歩▲同玉△9四香▲8五玉△7三桂(投了図)
まで、後手氏の勝ち。
私にしては珍しく、詰め上がりまで指した。最後、△7三桂で△9三桂を願っていたのだからおめでたい。
感想戦を行う。「▲9五歩がマズかったか。でも△9八歩▲同飛に飛車成らせても何とかなると思ったんだよな」
「飛車成らせちゃダメですよね」
まあそれはそうである。その後も私は
「千日手にすべきだったかな。でも先手だからなァ」
とボヤく。つまり千日手回避を敗因にしようとしたわけである。
結局終盤までやったが、私のボヤキに嫌気が差したのか、相手がもういいでしょ、という感じで、感想戦を切り上げてしまった。私は自己嫌悪の持って行き場がない。
チームはというと、0勝7敗。これもちょっと経験したことのない数字だ。全敗は誰でもできる。私が将棋ペンクラブに参戦した意味が、なくなった。
(つづく)