一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

詰将棋より100倍難しい

2018-07-11 00:36:29 | 将棋雑記
先月、必要に迫られて、山本一成著「人工知能はどのようにして『名人』を越えたのか?」(ダイヤモンド社・税込1,620円)を読んだ。
なかなかおもしろい読み物だったが、とくに唸った箇所があったので、紹介する。

題材は1998年2月18日・19日に指された第47期王将戦第5局、羽生善治王将VS佐藤康光八段の一戦である。

この局面、「将棋世界」2018年1月号「イメージと読みの将棋観・2」にも出てきたが、ここから羽生王将は、後手玉を43手で詰ました。
筆者はこれを自宅PCのポナンザに掛けたところ、3分で後手玉を詰ました。
しかしポナンザにしては遅い。
自玉にも受けの余地があるため、ポナンザがそちら(受けの手)にも気を取られてしまった――。
そう考えた筆者は、▲6六金を△7六金に換え、先手玉を必至状態にした。つまり、もはや後手玉を詰ますしかない状況を作ったのである。
するとポナンザは、1秒(!)で後手玉を詰ましたという。
ここに実戦の恐ろしさがある。相手玉を詰ましにいってもいいが、受けに回る手もないことはない。こんな状況はポナンザいえども、相手玉を詰ますのに100倍以上の時間がかかるのだ。

   ※

プロでも詰みそうな局面で詰ましに行かない場合があるが、それはこんな理由による。即詰みの保証がない局面は、見た目以上に難度が高いのだ。そしてそれが高じると、誰でも分かる簡単な詰みさえ見えなくなることがある。これは私たちレベルでは日常茶飯事だ。
となれば、必ず詰むのが分かっている詰将棋、いわんや詰手数明記は、それだけで大きなヒントになっていることが分かる。
詰将棋だから初手に飛車を捨てたりするが、実戦にこの局面がしれっと出てきたら、私たちは果たして見極められるだろうか。
となれば詰将棋本でも、この要素を取り入れればおもしろい。すなわち全100問のうち、不詰めの詰将棋を2~3題混ぜておくのである。これだけで、考慮時間は相当延びると思う。
ちなみに「詰まない詰将棋の出題」は、安恵照剛八段の著書にあった気がする。
そして観戦記にも、それは応用できる。一手違いの終盤戦で譜を切る。ここで
「後手玉への寄せをお考えいただこう」
で締めていれば、読者は自玉のことを考えず、後手玉へ迫ればよい。しかし
「ここで先手は攻めるべきか、受けるべきか」
とあれば、読者は両方を考えねばならず、難易度が格段にアップする。
また投了以降の詰め手順も、親切に詰め上がりまで記すか、「後手玉は即詰み」で終わらせるかで、観戦記者の想定する読者が変わってくる。

私の人生も、せめて1年先の結果が分かっていれば、それに向けて努力するのだが。
いや、どの道その結果になるのだったら、やっぱり努力しないか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする