景虎の一行は街道の難所「米山峠」に差し掛かった
この峠は上り四里、下り四里で峠の頂に米山寺という薬師堂がある
この堂から見下ろせば、眼下には越後国中が見渡せる
新兵衛は景虎を縁に下ろして、各々休憩に入り手弁当を勧め、従者にも勧めた
皆が昼食をする間、景虎八歳と言えども同年の子らより小柄であり、堂の周りを走り回って遊んでいる、そして眼下の景色を見てから新兵衛に言うには
「この度、追放された無念をいずれ晴らすときが来るであろう、その時は、この山こそ良き陣所となるだろう
この筋にて合戦すべきである、さようにある時は越後府内を眼下に見下ろす良き陣場となろう」と囁けば
新兵衛は涙を流して「必ず、そのお言葉を忘れ賜うな、新兵衛もその時は、お供して力の限り御用に立ち申さん、されば末頼もしき若君である」と喜んだ。
これより景虎を三条に移して蟄居とあいなったが、果たして十一年を経て、天正十六年景虎は兵を起こし、越後を切り取ったとき、この米山を合戦場として勝利を得た。
幼き時より謀略絶倫なること「龍は一寸にしてその気を知る」というが如し。