見もの・読みもの日記

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桐壺~若紫/源氏物語(1)

2004-08-12 22:38:23 | 読んだもの(書籍)
○玉上琢彌訳注『源氏物語 第1巻』(角川文庫)1964.5

 突然、思い立って、源氏物語を読み始めた。

 実はこれまで全文を読んだことがない。だって~恋愛小説ってよくわかんないんだもん...と思って避けてきた。

 だけど、丸谷才一の源氏論は欠かさず読んでいる(と思う)。なかでも大野晋との共著『光る源氏の物語』(1989.9)は労作にして絶品だった。源氏の記述を一言一句読み解きながら、実際の情事があったか無かったかを2人で確認していくのだ。「ここは実事ありですね」「いや、なしでしょう」って感じで。そして、昨年の小説『輝く日の宮』を読んで、ああ、やっぱり、源氏を読もう、と思ったのだが...あれから1年。

 読む本が切れて、本屋の棚を見ていたら、ふと、この角川文庫の古典シリーズが目に入ったのだ。私は日本の古典は原文を読むので、隣に現代語訳は要らない。ただ、あんまり活字が小さいのや古くさいのは苦手である。あと、特殊すぎる仮名遣いは正されているほうがいい。その点、この文庫は読みやすそうだと思って、ふらりと買ってしまって、読み始めた。

 1巻目を読み終わって、いまのところ、飽きていない。続けて2巻に取り掛かった。

 高校生や大学生の頃は、源氏の原文を読んでいると、すぐに人物の動きが把握できなくなって頭が混乱し(作者の「朧化」叙述態度のせいだと思っていた)、飽きてしまったものだが、今回はそれがない。

 誰がどう動き、どう感じ、何を発話しているか、ほぼスムーズに理解できる。だいたいの粗筋を知っているせいもあるが、ああ源氏みたいなオトコにこう言われたらオンナはこう感じるよな、という登場人物の言動を無意識に先読みできるレベルが進歩しているのじゃないかと思う。やっぱりこれは大人の小説である。10代に読ませるようなものじゃない。

 それにしても、ちょっと驚いたのは、「全体に朧化・婉曲が多い」と学んでいた源氏の記述が、けっこう、生々しい皮膚感覚に富んでいること。

 「夕顔」なんてすごいな~。「いみじくわななき」(震え)「汗もしとどに」(発汗)「かいさぐり給ふに息もせず」そして「(身体が)ひえいりにたれば」というように、死にゆく女の身体が、すぐそこにあるかのような生々しさをもって読者に迫ってくる。

 「若紫」の若君の愛らしさもそう。遠くに据えおいて眺めて鑑賞する愛らしさではなく、膝にのせ、懐に抱きいれて愛でている感じが伝わってくる。

 というわけで、2巻に続く。
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