○藤原帰一『平和のリアリズム』岩波書店 2004.8
気がついたら8月15日は終戦記念日だった。別にそれに合わせてこの本を読んでいたわけではないのだけれど。
本書は、著者がこの十数年間(湾岸戦争からイラク戦争の間)に新聞や総合雑誌に書いた文章を集めたものである。
著者は「戦争の排除」に対して、実に執念深いまでの理想主義者だと私は思う。しかし同時に、著者は自分の主張が「平和主義」という教条的な理想主義に陥ってしまうことを注意深く避けて、いつも現実との接点(ある意味では妥協点)を探しているように見える。
前作『「正しい戦争」は本当にあるのか』(ロッキング・オン 2003.12)の印象的な箇所に、たとえば牛泥棒の件で対立する部族と部族の間に入っていって、まあまあ、ここは1つ、俺に預からせてくれ、ということを双方に納得させるような、地味な活動が平和維持活動なんだ、というくだりがある。
本書は、いわばこの牛泥棒の仲裁の比喩を、実例に即して具体的に語ったものである。さまざまな地域のそれぞれの紛争において、カンボジアでは、東ティモールでは、イラクでは、東アジアでは、平和実現のために何が必要なのか、ということを具体的に提言しようと試みている。
絡み合った利害と感情をほどいていくのは、面倒な作業である。忍耐づよく、かつ明晰な頭脳を必要とする。時には「犯罪国家」の元首の顔を立てるようなこともしなければならない。悪の元凶を1つに決めつけ、一刀両断でカタをつける態度に比べると、どこまで行ってもフラストレーションが残る。でも、本当の理想主義者は、妥協とか屈服とか右顧左眄とか言われることになんかひるんではいけないのだ。私もそういう強く賢い大人でありたい、と読者は励まされることだろう。
同時に、リアリストの立場をつらぬく著者は、「(ナショナリズムを冷笑できる者は)夢の要らない恵まれた立場にいるだけのことだ」という冷や水をあびせることも忘れない。つまり、強くあることと同時に、弱い人々ヘの共感を忘れないことを、著者は読者に迫るのだ。
なお、私はASEANの活動について学ぶところが非常に大きかった。多国間協力による地域安定化の試みは、東アジアよりも東南アジアのほうが進んでいるのね。ASEAN+3は、東南アジアにおける達成を北東アジアに及ぼす契機として期待できる、という視点は、本書を読んで始めて獲得した知識である。なるほど。
時々、朝はやく本郷三丁目のスタバでお見かけする藤原先生、これからもご活躍を期待します。
気がついたら8月15日は終戦記念日だった。別にそれに合わせてこの本を読んでいたわけではないのだけれど。
本書は、著者がこの十数年間(湾岸戦争からイラク戦争の間)に新聞や総合雑誌に書いた文章を集めたものである。
著者は「戦争の排除」に対して、実に執念深いまでの理想主義者だと私は思う。しかし同時に、著者は自分の主張が「平和主義」という教条的な理想主義に陥ってしまうことを注意深く避けて、いつも現実との接点(ある意味では妥協点)を探しているように見える。
前作『「正しい戦争」は本当にあるのか』(ロッキング・オン 2003.12)の印象的な箇所に、たとえば牛泥棒の件で対立する部族と部族の間に入っていって、まあまあ、ここは1つ、俺に預からせてくれ、ということを双方に納得させるような、地味な活動が平和維持活動なんだ、というくだりがある。
本書は、いわばこの牛泥棒の仲裁の比喩を、実例に即して具体的に語ったものである。さまざまな地域のそれぞれの紛争において、カンボジアでは、東ティモールでは、イラクでは、東アジアでは、平和実現のために何が必要なのか、ということを具体的に提言しようと試みている。
絡み合った利害と感情をほどいていくのは、面倒な作業である。忍耐づよく、かつ明晰な頭脳を必要とする。時には「犯罪国家」の元首の顔を立てるようなこともしなければならない。悪の元凶を1つに決めつけ、一刀両断でカタをつける態度に比べると、どこまで行ってもフラストレーションが残る。でも、本当の理想主義者は、妥協とか屈服とか右顧左眄とか言われることになんかひるんではいけないのだ。私もそういう強く賢い大人でありたい、と読者は励まされることだろう。
同時に、リアリストの立場をつらぬく著者は、「(ナショナリズムを冷笑できる者は)夢の要らない恵まれた立場にいるだけのことだ」という冷や水をあびせることも忘れない。つまり、強くあることと同時に、弱い人々ヘの共感を忘れないことを、著者は読者に迫るのだ。
なお、私はASEANの活動について学ぶところが非常に大きかった。多国間協力による地域安定化の試みは、東アジアよりも東南アジアのほうが進んでいるのね。ASEAN+3は、東南アジアにおける達成を北東アジアに及ぼす契機として期待できる、という視点は、本書を読んで始めて獲得した知識である。なるほど。
時々、朝はやく本郷三丁目のスタバでお見かけする藤原先生、これからもご活躍を期待します。