見もの・読みもの日記

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平安の覇王/桓武天皇

2004-08-02 18:21:49 | 読んだもの(書籍)
○三田誠広『桓武天皇:平安の覇王』作品社 2004.6

 私はほとんど現代小説を読まない。だから、三田誠広と言えばデビュー作『僕って何』しか知らないので、若者の風俗を描く現代小説の作家だと思っていた。へえ?三田誠広が桓武天皇?めずらしいじゃない、と思って本書を手に取った。ついでに巻末に『釈迦と維摩:小説維摩経』の宣伝を見つけたときも、ほう、とびっくりした。

 だが、近年の著者は宗教と古代史を主な題材としているらしい。個人サイト「三田誠広(みたまさひろ)のHOMEPAGE」に著作リストが載っていて、題名だけ眺めていても、1人の作家の軌跡というのは興味深いものである。まあ、それはさておき。

 平安遷都の前夜というのは、一般的にどのくらい関心を持たれているのか知らないが、面白い時代だと思う。時に前半は、中国かぶれの権力主義者・仲麻呂、悲劇の処女王・孝謙女帝、道鏡、橘諸兄など、役者揃いだ。後半はちょっと役者が小粒になるが、種継の暗殺、早良親王の悲劇など、いろいろ奇怪な事件が相次ぐ。

 作者の人物造型は道鏡に対してわりと好意的である。孝謙女帝にも優しい。大伴家持は腹に一物隠した油断のならない人物とされているが、実際はそれほどのものではなかったのではないか。文学者に対する身びいきの感がある。和気清麻呂は、愛国の忠臣のイメージを払拭して、神秘に感応する童子として描かれている。あと、カッコいいのは吉備真備。正気を取り戻した孝謙(称徳)女帝に侍るところは狄仁傑みたいだ!

 だが、残念なことに、主人公の桓武の描き方が凡庸である。著者が凡庸な帝王を描きたいと意図したのかどうか、よく分からないが、あまり魅力は感じられない。これで「覇王」を名乗らせては、この用語の本家・中国の歴史に申し訳なさすぎるのではないか。

 桓武天皇って、もうちょっとあやしい逸話とかないんだっけ?(うろ覚えにはあったような気がするのだが) いっそ、もっと思いきり歴史を離れたほうが面白かったのではないのかなあ。

コメント
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