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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

学者のネタ帖/涙と日本人

2004-09-07 11:33:25 | 読んだもの(書籍)
○山折哲雄『涙と日本人』日本経済新聞社 2004.8

 新聞や雑誌に連載した短いコラムを下敷きに書き直したもの。だから、あまり掘り下げた研究や突っ込んだ議論はない。その代わり、さすが、長年の研究の蓄積で、「えっ」と思うような珠玉のネタがときどき、現れる。

 たとえば、チベットのポタラ宮には、最上階近くにダライ・ラマの瞑想室と称する部屋があり、そこには華麗な獣姦図がかけられている。それから、便意をもよおして、トイレに入ってみたら、八畳敷きぐらいの広い板間の中央に、ポッカリ小さな穴が開いており、のぞいてみると、二、三十メートル下の最下階まで吹き抜けになっていた。

 実は、たまたま書店で立ち読みしていたとき、このエピソードが眼にとまって、本書を買うことに決めてしまった。

 美空ひばりは「悲しい酒」を歌うとき、必ず二番の二行目あたりから涙を流し始め、最後の四行目あたりで、その涙のあとが乾きあがっていく。しかし、最後の東京ドーム公演のとき、彼女の頬に涙は流れなかった。

 江戸後期、エゾ地との交易に活躍し、ロシア船に捕らえられたこともある高田屋嘉兵衛はカムチャツカまで近松の浄瑠璃本を携えていった。さらに三十年後、同じようにロシアに漂着した大黒屋光太夫も、漂流中、浄瑠璃本を身につけて、かたときも手放すことがなかったという。

 などなど。これを出発点に、いろんなことを考えたくなるようなこぼれ話に満ちている。

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