○尹載善『韓国の軍隊:徴兵制は社会に何をもたらしているか』(中公新書)中央公論社 2004.8
姜尚中氏が、ある講演で、韓国の徴兵制にはいいところも悪いところもあるが、少なくともあの制度を通じて、韓国国民は「軍隊」というカルチャーを理解し、ある程度「軍隊」を市民化することに成功した、ということを述べていた。講演の本筋を少し離れた質疑応答の中だったと思うが、ずっと記憶にひっかかっている。
我々日本人は自衛隊という不思議な「軍隊」を持っている。持っているにもかかわらず、存在を容認するか否かという論争が決着しないものだから(正直、私はずっと自衛隊を違憲=あってはならないものだと思ってきた)一般市民は、自衛隊の実態をあまりにも知らない。
どんな採用試験が行われているのか、給料をいくら貰って、毎日何をして過ごしているのか、宿舎や食事はどうなのか、訓練は厳しいのか、専門教育は行われているのか、超過勤務はあるのか、上官と部下の関係は民主的なのか否か。多くの日本国民は、本当に何も知らないと思う。
では、韓国はどうなんだろう。一般の韓国人にとって「軍隊」って本当にそんなに身近なんだろうか? 韓国に徴兵制があることは分かっているが、韓流ブームで次々に日本を訪れる芸能人を見ていても、面識のある韓国人留学生たちのことを考えても、観光で訪ねたソウルの街の賑わいを思い出してみても、「徴兵制」というものの実態がどうもイメージできない。
というわけで手に取ってみたのが本書なのだが、明快な答えを得たとは言いがたい。本書には何人かの若者の入隊体験レポートが収録されているが、それらは全て、徴兵制に反発したり、悩んだりしながらも、最後には、軍隊生活を通して獲得できるものを肯定的に捉えようという結論に導かれている。
著者が韓国陸軍の指揮官の経験のある予備役少佐であることを考えると、これは初めから仕組まれた結論という感じがする。
むしろ、本書では参考程度に扱われている情報、たとえば、政府高官や富裕階級の子弟が合法的に兵役を忌避するケースが増えていたり(ただし政治家にとって親族の兵役忌避はマイナス・イメージになる)、ある大学のアンケートで「兵役が自由意志で選択できるのなら行かない」という回答が80%近かったことのほうが、韓国社会の実像をはしなくも表わしているのではないか、と思った。
ちょっと面白かったのは、軍隊生活の現実的な息抜きとして「宗教」が存在意義を持っているということ。何かの信者になれば、教会やお寺の集会に参加でき、甘いお菓子やおいしい食事を口にすることができるという。「韓国は日本より熱心なキリスト教徒が多い」と言われているけど、理由の一端は、こんなところにありそうである。
教会で配られる代表的なお菓子はチョコパイ(エンゼルパイ)らしい。そうか!映画「JSA」でチョコパイが出てきたのもそういうわけだったのね。
姜尚中氏が、ある講演で、韓国の徴兵制にはいいところも悪いところもあるが、少なくともあの制度を通じて、韓国国民は「軍隊」というカルチャーを理解し、ある程度「軍隊」を市民化することに成功した、ということを述べていた。講演の本筋を少し離れた質疑応答の中だったと思うが、ずっと記憶にひっかかっている。
我々日本人は自衛隊という不思議な「軍隊」を持っている。持っているにもかかわらず、存在を容認するか否かという論争が決着しないものだから(正直、私はずっと自衛隊を違憲=あってはならないものだと思ってきた)一般市民は、自衛隊の実態をあまりにも知らない。
どんな採用試験が行われているのか、給料をいくら貰って、毎日何をして過ごしているのか、宿舎や食事はどうなのか、訓練は厳しいのか、専門教育は行われているのか、超過勤務はあるのか、上官と部下の関係は民主的なのか否か。多くの日本国民は、本当に何も知らないと思う。
では、韓国はどうなんだろう。一般の韓国人にとって「軍隊」って本当にそんなに身近なんだろうか? 韓国に徴兵制があることは分かっているが、韓流ブームで次々に日本を訪れる芸能人を見ていても、面識のある韓国人留学生たちのことを考えても、観光で訪ねたソウルの街の賑わいを思い出してみても、「徴兵制」というものの実態がどうもイメージできない。
というわけで手に取ってみたのが本書なのだが、明快な答えを得たとは言いがたい。本書には何人かの若者の入隊体験レポートが収録されているが、それらは全て、徴兵制に反発したり、悩んだりしながらも、最後には、軍隊生活を通して獲得できるものを肯定的に捉えようという結論に導かれている。
著者が韓国陸軍の指揮官の経験のある予備役少佐であることを考えると、これは初めから仕組まれた結論という感じがする。
むしろ、本書では参考程度に扱われている情報、たとえば、政府高官や富裕階級の子弟が合法的に兵役を忌避するケースが増えていたり(ただし政治家にとって親族の兵役忌避はマイナス・イメージになる)、ある大学のアンケートで「兵役が自由意志で選択できるのなら行かない」という回答が80%近かったことのほうが、韓国社会の実像をはしなくも表わしているのではないか、と思った。
ちょっと面白かったのは、軍隊生活の現実的な息抜きとして「宗教」が存在意義を持っているということ。何かの信者になれば、教会やお寺の集会に参加でき、甘いお菓子やおいしい食事を口にすることができるという。「韓国は日本より熱心なキリスト教徒が多い」と言われているけど、理由の一端は、こんなところにありそうである。
教会で配られる代表的なお菓子はチョコパイ(エンゼルパイ)らしい。そうか!映画「JSA」でチョコパイが出てきたのもそういうわけだったのね。