見もの・読みもの日記

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美しいもの、恐ろしいもの/美術にぶるっ!(東京国立近代美術館)

2013-01-06 23:54:06 | 行ったもの(美術館・見仏)
東京国立近代美術館 60周年記念特別展『美術にぶるっ! ベストセレクション 日本近代美術の100年』(2012年10月16日~2013年1月14日)

 昨年秋から始まっていた展覧会だが、日本画・人気投票1位の上村松園『母子』を使ったポスターを見ていて、こういう晴れやかな作品は、年明けの目出度い気分で見にいこう、と決めていた。

 本展は、1952年12月1日、京橋の地に開館した東京国立近代美術館が創立60周年を迎えたことを記念し、日本近代美術の100年を回顧する展覧会。さらに、10年ぶりにリニューアルされた所蔵品ギャラリーのお披露目も兼ねている。

 展示は、まず4階の展示室1が「ハイライト」と名づけられ、同館の豊富なコレクションの中でも絶対に見逃せない7点の名品が展示されている。という説明を読んだあとで、原田直次郎の『騎龍観音』が出ているのに、微笑んでしまった。なぜお前が…いや、好きなんだけど。

 展示室2以降は、だいたい時代順に進む。日本画・洋画に加えて、木村荘八の『濹東綺譚』挿絵や、谷中安規の版画、田中恭吉(このひとは知らなかった。版画家)の私信の絵葉書など、多ジャンルの作品が入り混じる。展示室7、8では戦争に関連した作品をたっぷり見せる。近代史を語るには正攻法だと思うけど、胃が痛くなった。これも美術史かあ。福沢一郎『牛』が印象的だった。

 展示室10は「日本画」に特化。囲い込みをしないで、ほかのジャンルの同時代作品と一緒に並べたほうがいいんじゃないかなあ、と思ったが、日本画が美しく見える環境と洋画が美しく環境は、たとえば照明など、全然違うのだそうだ。なるほどなあ、と納得。安田靫彦の『黄瀬川陣』は頼朝・義経の対面を描いたもの。前日に鎌倉の頼朝墓に詣でたばかりで、今年は正月から頼朝に縁が深い。川端龍子『草炎』(紺地に金色の草花→経巻の扉絵みたい)とか、下村観山『木の間の秋』(琳派の秋草図みたい)とか、加山又造『春秋波濤』(日月山水屏風!)とか、近代以前の作品をいろいろ脳裡に浮かべながら楽しむ。

 展示室11~戦後(現代)美術はあまり得意な分野じゃないなあ、と思っていたのだが、田中功起のビデオ作品、二人の男性が近美の建物の中(それも作品が展示されている中)を、ダンボール箱を持って走り回り、積み上げては崩し、また別の場所で積み上げる、というのが面白かった。

 さて、以上は「第1部 MOMATコレクションスペシャル」である。いったん出口に戻ったあと、「第2部 実験場1950s」に続く。1950年代って、今の日本の価値観を以っては簡単に評価できない、正と負の可能性に満ちた混沌の時代だったように思う。正月の目出度く晴れやかな気分が、どこかに吹っ飛んでしまった…。

 いちばん衝撃的だったのは、砂川事件(1956年)のドキュメントフィルムが放映されていたこと。全編(56分)というわけにはいかなかったけど、けっこう長時間、モニタの前で見入ってしまった。本で読んだり、写真で見たりしたことはあっても、当時の人々が動いている映像を見たのは初めてだと思う。誰がどうやって撮影していたのだか、カメラが、事件の(学生と機動隊の衝突の)中心に入っていて、彼らの表情を間近に捉えていることにも驚いた。いま、日本のジャーナリズムのカメラは、こんなふうに現場に入って、撮るべきものを撮っているのだろうか。

 まさか「美術にぶるっ!」のタイトルの下で、こんなものに出会おうとは想定外だったけど、だまされた(?)ことに感謝している。
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