■東京国立博物館・本館 特別5室 2014年日中韓国立博物館合同企画特別展『東アジアの華 陶磁名品展』(2014年9月20日~11月24日)
中国の国家博物館、韓国の国立中央博物館、そしての日本の東京国立博物館が、それぞれ15件ずつ計45件を出品する展覧会。好企画だと思うが、「日本、中国、韓国の3ヵ国の国立博物館が合同で実施する初めての国際共同企画展」という説明を読んで、正直、ちょっと今さら感を抱いた。文化的につながりの深い三国なのに、なぜもっと早く実現しなかったのだろう。
正方形に近い会場は、入ってすぐ、各国の代表作品を1点ずつ置き、時計まわりの順路に従って、左辺に中国(基調カラーは臙脂)、奥に韓国(濃い緑)、右辺に日本(藍)が展示されている。まず代表作品であるが、中国は唐の三彩馬。出土品。「三彩」だが体躯は素焼きで釉薬が掛かっておらず、筋肉質の表現が生きている。華麗な装飾馬具をつけ、鞍の上には緑色の毛織物を打ち掛けている。韓国は、高麗時代(12世紀)の青磁亀形水注。韓国の青磁って、簡素な美のイメージがあったので、手の込んだ、フクザツな造形に少し驚く。「黄海北道開城付近出土」とあったから、現在は北朝鮮に属する地域からの出土品である。
日本は新潟県長岡市出土の火焰型土器(縄文中期・前3000~前2000年)。え~、あ~これか~といろいろな感想が頭の中で渦巻く。「日本を代表する陶磁器」を1件選ぶって、難しいだろうなあ。何を持ってきても反論が出そうだ。この火焰型土器は、あまり近づいて見たことがなかったので、じっくり観察。上から覗き込むと、口縁部の突起と突起の間の部分に、平たい「顔」のような造形があって、面白い。
中国編の出品は、国内では3級あるいは2級文物クラスだが、出土の来歴がはっきりしているものが多い。厚葬が流行した8世紀の三彩馬は美しいなあ。現代の土産物屋で売られている大量生産品とは品格が違う。法門寺の地下宮殿から出土した越窯の青磁碗には、包み紙の切れ端が付着しており、そこに細い線で墨書された女性の姿がある。珍しい!
韓国編は、三国時代・5~6世紀の家形容器が珍しかった。屋根の上のネコっぽい動物、顔をこっちに向けて~。中心は高麗青磁で、朝鮮白磁も少し出ている。高麗時代の青磁竹櫛文水注(これも開城付近出土)は、安宅コレクションに入っていても遜色なさそう。
日本編は、「何でもあり」の印象。弥生時代の朱彩壺。奈良三彩。渥美焼、瀬戸焼。桃山茶陶の長次郎、信楽、美濃、唐津、織部、江戸に入って、仁清、乾山、伊万里、鍋島。目移りし過ぎて、くらくらした。あとでゆっくり考えて、古九谷ほしかったなーとか、柿右衛門が抜けていたとか、自分で15件を選び直してみるのも楽しいと思う。会場の最後に、3か国それぞれの陶磁器年表が並んでいたが、あれはひとつのスケールにまとめたほうが、相互関係が把握できてよかったのではないかと思う。
その他の常設展示から。11室(彫刻)に見慣れない仏像があると思ったら、香川県大川郡丹生脇屋庵伝来の菩薩立像(平安時代)。遠く離れた『四国おへんろ展』へのリスペクト? 古風で、内に籠る力強さを感じる魅力的な像だ。10~11世紀、「和様化の進む時代に保守的な仏師が作った」のではないかと解説にあった。
14室では、特集『漆芸に見る東西交流』(2014年9月2日~11月3日)を開催中。南蛮船や南蛮人の姿を表わした屏風・漆器、南蛮人向けに作られた漆器などが展示されている。螺鈿の書見台、模造品でもいいから欲しいなあ。幕末から明治にかけて作られた「長崎漆器」とか「長崎螺鈿」と呼ばれる工芸品が出ていたのも嬉しかった。初めて見たのは、たぶん長崎歴史博物館ではないかと思う。全体に赤み(薔薇色)が強くて、女性好みで華やか。実は伏彩色(裏彩色)の技法が用いられているそうだ。展示品の『花鳥螺鈿裁縫机』、蓋が開いてるので、正面から見ると蓋の内側しか見えない。ぜひ展示ケースの横にまわって、外蓋の細工も見てほしい。写真を添えてよ(泣)。
国宝室は『風信帖』。7室(屏風と襖絵)は筆者不詳の『秋草白菊図屏風』が地味によかった。
■講談社野間記念館 『講談社の絵本~野間清治最後の出版事業』(2014年9月13日~10月26日)
講談社の創業者である野間清治(1878-1938)が最晩年に手がけた絵本の出版事業。昭和11年(1936)12月「乃木大将」の刊行から昭和17年(1942)までに203冊の絵本を出版。昭和34年(1959)までに総部数7000万部を発行したという。私は1960年の生まれで、年上の兄弟はいなかったが、家には「講談社の絵本」が何冊かあった。幼稚園にもあって、読んでもらったり、自分で読んだりした。展示されていた作品で、確実に覚えがあったのは「桃太郎」「安寿姫と厨子王」くらいかな。戦前は「八幡太郎義家」「加藤清正」なんていう巻もあったのね。読んでみたかった。
■練馬区立美術館 『あしたのジョー、の時代』展(2014年7月20日~9月21日)
1967年暮れから1973年まで「週刊少年マガジン」に連載され、人気を博したマンガ「あしたのジョー」とともに、同時代を振り返る。ううむ、この夏の世田谷文学館の企画展『日本SF展・SFの国』といい、東京の区立美術館・文学館はいい企画を立てるなあ。
私自身は「あしたのジョー」にハマった世代より少し若い。まだ女子が少年マンガを読むことは一般的ではなく、アニメも見なかった。従兄弟の家に単行本があって、途中まで読ませてもらったが、肉体の極限にこだわった描写や、登場人物の心理的な葛藤が難しくて、あまり好きになれなかった。ストーリーを把握したのは、ずいぶん後年のことだ。しかし、いま読むと、やっぱり名作だと思う。展示されているちばてつやの原画を見ながら、どんどん物語世界に引き込まれてしまった。老若男女(男性比率高め)が、同様に黙々と原画を「読んで」いた。外国人の一団も見学に来ていて、ガイドの男性がフランス語かイタリア語で解説していた。
雑誌連載期間は1967年暮れ(1968年1月1日号)から1973年5月まで、5年半に満たない。「ドラゴンボール」が10年超えだったり、「ONE PIECE」が1997年から連載継続中だったりするのに比べると、当時の「社会現象になった人気マンガ」って、意外と執筆(発表)期間が短い。だからこそ、余計に「時代」との同期性が強く印象に残るのかもしれない。
2階の展示室には、60年代末から70年代初めの社会の諸相、消費文化を反映したテレビCMや、反戦、反万博、反成田空港建設など、公権力に挑む芸術活動の数々、さらには肉体を突出させた暗黒舞踏などもあって、興味深かった。不気味な暗黒舞踏のビデオを見て、小さい子が「怖い」と泣いていたが、そりゃ泣くよなあ。あと、赤瀬川さんの作品の過激なこと。忖度と自主規制が行き渡ったいまの社会の風通しの悪さをあらためて感じてしまった。
個人的には、アニメ「あしたのジョー」「あしたのジョー2」の制作に携わった出崎統氏(ほかの作品も好きだった)のご冥福を祈る機会でもあった。2011年死去。「あしたのジョー」にオマージュを捧げた作家たちの中に杉野昭夫さんの絵を見つけたことも嬉しかった。
中国の国家博物館、韓国の国立中央博物館、そしての日本の東京国立博物館が、それぞれ15件ずつ計45件を出品する展覧会。好企画だと思うが、「日本、中国、韓国の3ヵ国の国立博物館が合同で実施する初めての国際共同企画展」という説明を読んで、正直、ちょっと今さら感を抱いた。文化的につながりの深い三国なのに、なぜもっと早く実現しなかったのだろう。
正方形に近い会場は、入ってすぐ、各国の代表作品を1点ずつ置き、時計まわりの順路に従って、左辺に中国(基調カラーは臙脂)、奥に韓国(濃い緑)、右辺に日本(藍)が展示されている。まず代表作品であるが、中国は唐の三彩馬。出土品。「三彩」だが体躯は素焼きで釉薬が掛かっておらず、筋肉質の表現が生きている。華麗な装飾馬具をつけ、鞍の上には緑色の毛織物を打ち掛けている。韓国は、高麗時代(12世紀)の青磁亀形水注。韓国の青磁って、簡素な美のイメージがあったので、手の込んだ、フクザツな造形に少し驚く。「黄海北道開城付近出土」とあったから、現在は北朝鮮に属する地域からの出土品である。
日本は新潟県長岡市出土の火焰型土器(縄文中期・前3000~前2000年)。え~、あ~これか~といろいろな感想が頭の中で渦巻く。「日本を代表する陶磁器」を1件選ぶって、難しいだろうなあ。何を持ってきても反論が出そうだ。この火焰型土器は、あまり近づいて見たことがなかったので、じっくり観察。上から覗き込むと、口縁部の突起と突起の間の部分に、平たい「顔」のような造形があって、面白い。
中国編の出品は、国内では3級あるいは2級文物クラスだが、出土の来歴がはっきりしているものが多い。厚葬が流行した8世紀の三彩馬は美しいなあ。現代の土産物屋で売られている大量生産品とは品格が違う。法門寺の地下宮殿から出土した越窯の青磁碗には、包み紙の切れ端が付着しており、そこに細い線で墨書された女性の姿がある。珍しい!
韓国編は、三国時代・5~6世紀の家形容器が珍しかった。屋根の上のネコっぽい動物、顔をこっちに向けて~。中心は高麗青磁で、朝鮮白磁も少し出ている。高麗時代の青磁竹櫛文水注(これも開城付近出土)は、安宅コレクションに入っていても遜色なさそう。
日本編は、「何でもあり」の印象。弥生時代の朱彩壺。奈良三彩。渥美焼、瀬戸焼。桃山茶陶の長次郎、信楽、美濃、唐津、織部、江戸に入って、仁清、乾山、伊万里、鍋島。目移りし過ぎて、くらくらした。あとでゆっくり考えて、古九谷ほしかったなーとか、柿右衛門が抜けていたとか、自分で15件を選び直してみるのも楽しいと思う。会場の最後に、3か国それぞれの陶磁器年表が並んでいたが、あれはひとつのスケールにまとめたほうが、相互関係が把握できてよかったのではないかと思う。
その他の常設展示から。11室(彫刻)に見慣れない仏像があると思ったら、香川県大川郡丹生脇屋庵伝来の菩薩立像(平安時代)。遠く離れた『四国おへんろ展』へのリスペクト? 古風で、内に籠る力強さを感じる魅力的な像だ。10~11世紀、「和様化の進む時代に保守的な仏師が作った」のではないかと解説にあった。
14室では、特集『漆芸に見る東西交流』(2014年9月2日~11月3日)を開催中。南蛮船や南蛮人の姿を表わした屏風・漆器、南蛮人向けに作られた漆器などが展示されている。螺鈿の書見台、模造品でもいいから欲しいなあ。幕末から明治にかけて作られた「長崎漆器」とか「長崎螺鈿」と呼ばれる工芸品が出ていたのも嬉しかった。初めて見たのは、たぶん長崎歴史博物館ではないかと思う。全体に赤み(薔薇色)が強くて、女性好みで華やか。実は伏彩色(裏彩色)の技法が用いられているそうだ。展示品の『花鳥螺鈿裁縫机』、蓋が開いてるので、正面から見ると蓋の内側しか見えない。ぜひ展示ケースの横にまわって、外蓋の細工も見てほしい。写真を添えてよ(泣)。
国宝室は『風信帖』。7室(屏風と襖絵)は筆者不詳の『秋草白菊図屏風』が地味によかった。
■講談社野間記念館 『講談社の絵本~野間清治最後の出版事業』(2014年9月13日~10月26日)
講談社の創業者である野間清治(1878-1938)が最晩年に手がけた絵本の出版事業。昭和11年(1936)12月「乃木大将」の刊行から昭和17年(1942)までに203冊の絵本を出版。昭和34年(1959)までに総部数7000万部を発行したという。私は1960年の生まれで、年上の兄弟はいなかったが、家には「講談社の絵本」が何冊かあった。幼稚園にもあって、読んでもらったり、自分で読んだりした。展示されていた作品で、確実に覚えがあったのは「桃太郎」「安寿姫と厨子王」くらいかな。戦前は「八幡太郎義家」「加藤清正」なんていう巻もあったのね。読んでみたかった。
■練馬区立美術館 『あしたのジョー、の時代』展(2014年7月20日~9月21日)
1967年暮れから1973年まで「週刊少年マガジン」に連載され、人気を博したマンガ「あしたのジョー」とともに、同時代を振り返る。ううむ、この夏の世田谷文学館の企画展『日本SF展・SFの国』といい、東京の区立美術館・文学館はいい企画を立てるなあ。
私自身は「あしたのジョー」にハマった世代より少し若い。まだ女子が少年マンガを読むことは一般的ではなく、アニメも見なかった。従兄弟の家に単行本があって、途中まで読ませてもらったが、肉体の極限にこだわった描写や、登場人物の心理的な葛藤が難しくて、あまり好きになれなかった。ストーリーを把握したのは、ずいぶん後年のことだ。しかし、いま読むと、やっぱり名作だと思う。展示されているちばてつやの原画を見ながら、どんどん物語世界に引き込まれてしまった。老若男女(男性比率高め)が、同様に黙々と原画を「読んで」いた。外国人の一団も見学に来ていて、ガイドの男性がフランス語かイタリア語で解説していた。
雑誌連載期間は1967年暮れ(1968年1月1日号)から1973年5月まで、5年半に満たない。「ドラゴンボール」が10年超えだったり、「ONE PIECE」が1997年から連載継続中だったりするのに比べると、当時の「社会現象になった人気マンガ」って、意外と執筆(発表)期間が短い。だからこそ、余計に「時代」との同期性が強く印象に残るのかもしれない。
2階の展示室には、60年代末から70年代初めの社会の諸相、消費文化を反映したテレビCMや、反戦、反万博、反成田空港建設など、公権力に挑む芸術活動の数々、さらには肉体を突出させた暗黒舞踏などもあって、興味深かった。不気味な暗黒舞踏のビデオを見て、小さい子が「怖い」と泣いていたが、そりゃ泣くよなあ。あと、赤瀬川さんの作品の過激なこと。忖度と自主規制が行き渡ったいまの社会の風通しの悪さをあらためて感じてしまった。
個人的には、アニメ「あしたのジョー」「あしたのジョー2」の制作に携わった出崎統氏(ほかの作品も好きだった)のご冥福を祈る機会でもあった。2011年死去。「あしたのジョー」にオマージュを捧げた作家たちの中に杉野昭夫さんの絵を見つけたことも嬉しかった。