■東洋文庫 企画展『岩崎コレクション~孔子から浮世絵まで』(2014年8月20日~12月26日)
飛び石連休の谷間を東京で過ごした。月曜に開いている美術館を探したら、意外やここが開いていたので行ってきた。東洋文庫ミュージアムは、2011年に開館。開館記念展を見にきたはずだが、レポートを書き逃している。今回は、東洋文庫創立90周年を祝う記念展である。実は、今年の春、同館の関係者から「記念展の企画案が『孔子から春画まで』というタイトルなので、どうしようかと思っている」という話を聞いていた。さてどうなったかと思ったら、タイトルは「孔子から浮世絵まで」にソフトフォーカスされたが、展覧会の公式ページを見にいくと「※展示には春画も含まれます。浮世絵展示室の入場は18歳以上の方に限らせて頂きます」という注意書が載っていて、あまりの麗々しさというか、律儀さに笑ってしまった。
まず「東洋文庫の名品」の部屋には、国宝「毛詩」、重要文化財「論語集解」など。左記は魏の何晏の著書。ただし東洋文庫の伝本は、中国ではなく、日本に伝わった写本である。ほかに後陽成天皇勅版「日本書紀」、嵯峨本「伊勢物語」など、我が国の印刷出版の諸相を見ることができる。
それから「浮世絵」の部屋に移動。だいたい時代順、作者別に普通の風俗画と春画が入り交ぜに展示されている。鈴木春信の作品は、春画もそうでない風俗画も、色彩に品があり、中性的で優美。浮世絵の作者たちは、蚊帳や絽の着物の「透け具合」を版画で表現することに骨身を削っているように思う。その先に、当然、春画がある。歌麿の描いた「御殿山花見籠」という作品には、籠から半身を乗り出したお姫様が描かれているが、たっぷりした着物の量(かさ)に手も足も隠れて、女性の肉体が全く感じられない。ああ、文楽の表現って、人形だけの絵空事ではなくて、当時の生身の女性たちが、そもそも肉体を消していたんだ、ということを感じた。国貞描く春画「生写相生源氏」は松平春嶽の発注で「武士たちもこうした春画を温かい目で眺め、楽しんでいたであろう」という、勿体ぶった解説に苦笑してしまった。珍しいところで、江戸時代のブックカバー「書物袋」を集めた「書物袋絵外題集」というものも出ている。
北斎晩年の作「唐土名所之絵」は面白かった。北東には盛京、長白山。西には天山、大雪山。南には広東、台湾。南西には瀾滄江の地名も見える。北斎の「諸国瀧廻り」は色も形も素晴らしい(一部は複製を展示)。西洋の顔料(プルシャン・ブルー)の青を基調に、寒色系でまとめた作品もあれば、わざと反対色のピンクや赤茶色を配した作品もある。
■文京区立鴎外記念館 『流行をつくる-三越と鴎外-』(2014年9月13日~11月24日)
同館の前身である「文京区立本郷図書館鴎外記念室」には何度か来たことがあるが、2012年に「森鴎外記念館」としてリニューアルされてからは初訪問。要塞のような石造りの外観にびっくりした。まあ鴎外は、明治の「モダン」を体現したような人だったから、いいか。
現在の展示は、日本最初のデパート「三越」と鴎外の接点を探る。鴎外の日記には、森家の女性たち、鴎外の母や妻・志げだけでなく、鴎外自身も子どもたちのために三越で買いものをした記録が残っている。また、三越は有識者や文芸家による「流行研究会(流行会)」を結成し、鴎外もそのメンバーに選ばれた(ただし展示品の日記を見る限り、あまり活動熱心ではない。「流行会アレドモ欠席」みたいな記事が目立つ)。なんだかよく分からなくて、面白い人だ。
飛び石連休の谷間を東京で過ごした。月曜に開いている美術館を探したら、意外やここが開いていたので行ってきた。東洋文庫ミュージアムは、2011年に開館。開館記念展を見にきたはずだが、レポートを書き逃している。今回は、東洋文庫創立90周年を祝う記念展である。実は、今年の春、同館の関係者から「記念展の企画案が『孔子から春画まで』というタイトルなので、どうしようかと思っている」という話を聞いていた。さてどうなったかと思ったら、タイトルは「孔子から浮世絵まで」にソフトフォーカスされたが、展覧会の公式ページを見にいくと「※展示には春画も含まれます。浮世絵展示室の入場は18歳以上の方に限らせて頂きます」という注意書が載っていて、あまりの麗々しさというか、律儀さに笑ってしまった。
まず「東洋文庫の名品」の部屋には、国宝「毛詩」、重要文化財「論語集解」など。左記は魏の何晏の著書。ただし東洋文庫の伝本は、中国ではなく、日本に伝わった写本である。ほかに後陽成天皇勅版「日本書紀」、嵯峨本「伊勢物語」など、我が国の印刷出版の諸相を見ることができる。
それから「浮世絵」の部屋に移動。だいたい時代順、作者別に普通の風俗画と春画が入り交ぜに展示されている。鈴木春信の作品は、春画もそうでない風俗画も、色彩に品があり、中性的で優美。浮世絵の作者たちは、蚊帳や絽の着物の「透け具合」を版画で表現することに骨身を削っているように思う。その先に、当然、春画がある。歌麿の描いた「御殿山花見籠」という作品には、籠から半身を乗り出したお姫様が描かれているが、たっぷりした着物の量(かさ)に手も足も隠れて、女性の肉体が全く感じられない。ああ、文楽の表現って、人形だけの絵空事ではなくて、当時の生身の女性たちが、そもそも肉体を消していたんだ、ということを感じた。国貞描く春画「生写相生源氏」は松平春嶽の発注で「武士たちもこうした春画を温かい目で眺め、楽しんでいたであろう」という、勿体ぶった解説に苦笑してしまった。珍しいところで、江戸時代のブックカバー「書物袋」を集めた「書物袋絵外題集」というものも出ている。
北斎晩年の作「唐土名所之絵」は面白かった。北東には盛京、長白山。西には天山、大雪山。南には広東、台湾。南西には瀾滄江の地名も見える。北斎の「諸国瀧廻り」は色も形も素晴らしい(一部は複製を展示)。西洋の顔料(プルシャン・ブルー)の青を基調に、寒色系でまとめた作品もあれば、わざと反対色のピンクや赤茶色を配した作品もある。
■文京区立鴎外記念館 『流行をつくる-三越と鴎外-』(2014年9月13日~11月24日)
同館の前身である「文京区立本郷図書館鴎外記念室」には何度か来たことがあるが、2012年に「森鴎外記念館」としてリニューアルされてからは初訪問。要塞のような石造りの外観にびっくりした。まあ鴎外は、明治の「モダン」を体現したような人だったから、いいか。
現在の展示は、日本最初のデパート「三越」と鴎外の接点を探る。鴎外の日記には、森家の女性たち、鴎外の母や妻・志げだけでなく、鴎外自身も子どもたちのために三越で買いものをした記録が残っている。また、三越は有識者や文芸家による「流行研究会(流行会)」を結成し、鴎外もそのメンバーに選ばれた(ただし展示品の日記を見る限り、あまり活動熱心ではない。「流行会アレドモ欠席」みたいな記事が目立つ)。なんだかよく分からなくて、面白い人だ。