見もの・読みもの日記

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繊細優美な中国絵画/蘇州の見る夢(大和文華館)

2015-11-03 20:44:35 | 行ったもの(美術館・見仏)
大和文華館 特別展『蘇州の見る夢 -明・清時代の都市と絵画-』(2015年10月10日~11月15日)

 明・清絵画史における蘇州を考える展覧会。「中国の明・清時代の絵画史を考えるときには、都市という枠組が大切です。明代中期以降、市場経済の発展を受けて、江南地域の杭州・蘇州・南京・松江・揚州などでは、次々と個性ある都市文化が花開いていきました。中でも重要なのが、『呉』と呼ばれる古都・蘇州です」と、本展の趣旨の冒頭にいう。私はどちらかというと、北方騎馬民族風味のある北京びいきだけど、江南文化の繊細優美でちょっと刹那的・享楽的な感じは、日本文化といちばん相性がいい感じがする。

 だいたい時代順に構成されていて、はじめは「元末明初の墨戯」。ストイックで枯淡な味わい。蘭や竹葉の軽みを墨の濃淡で表現する。次の「呉派文人画の成立と継承」になると、淡彩が増え、広角的におおらかな自然を描いた作品が増えて、とっつきやすくなる。現代人の目から見ても分かりやすいし、とてもきれい。小さい画面に精密に描いた作品が多いのも日本人の好みをくすぐられる。沈周筆『九段錦画冊』(京都国立博物館)とか陸治筆『白岳紀遊図冊』(有鄰館)とか本当に素敵だ。いま図録を見ていると、会場では見られなかった画面も多数収録されていてありがたい(むろん印刷の色彩は現物に及ばないけど)。文嘉筆『琵琶行図』は絵本みたいだ。近景には、三角の旗みたいな葉っぱをつけた紅葉?銀杏? 沈周の墨画『菊花文禽図』は、巨大な菊の下で小さなニワトリが虫(蝶?)を見上げている。ぜんぜん似てないけど若冲のニワトリを思い出す。中国ではニワトリは、文・武・勇・仁・信の五徳を備えた君子の象徴なのだそうだ。

 「雅俗の交友」は明代後半(17世紀)の作品が中心。盛茂(せいもよう)筆『唐人詩意図冊』(個人蔵)のような愛らしい小品がある一方、謝時臣や李士達の大幅の墨画山水図は、黒々した山の塊に少し気味悪さを感じる。「伝統からの展開」で、いよいよ明末清初に入る。ああ~この平明さ、好きだ。全体に画面が白っぽいのは紙のせいか、描き込みが少ないせいか。ここでも沈筆『撫古冊』(個人蔵)とか邵弥筆『雲山平遠図巻』(大阪市美)を全面的に図録に収録してくれて、ありがとう! 全体を通して見ると、変化に富んだ魅力が把握できる。

 次に「絵画市場の発展」では、職業画家として人気の高い仇英と仇英ふうの作品を扱う。ここで林原美術館と大倉集古館の『清明上河図巻』が登場。いわゆる蘇州片というやつ。どちらも虹橋(アーチ橋)の両端が階段状になっているのが気になった。ネットで原本の画像を探すと、虹橋の表面は平滑である。これは、当時(明清)の橋が両端を階段にすることが多かったのかな。そして、東大史料編纂所の『倭寇図巻』が展示されていたので、びっくりした。確かにこれも「伝・仇英筆」で伝わる作品なのである。
 
 続いて、清代の蘇州で生産された大衆向けの大判版画が数点。「姑蘇版」と呼ばれ、都市風景図が多く作られた。以前、板橋区立美術館の展示で見た覚えがある。『姑蘇万年橋図』は、蘇州城西に乾隆年間に完成した万年橋を描く。橋の両端は階段、中央は水平で、全体が台形を成している。こういう角張った形状が当世風だったのかな。描かれた町並みがけっこう面白い。外壁に直接、屋号やら売り物やらを文字で書いてあるのが中国らしいと思う。最後は「清後期の呉派理解」で、知らない画家が多かったが、銭杜筆『燕園十六景図冊』(個人蔵)が好み。「夢青蓮華盦(庵)」と題した1枚が印象に残った。小さな家屋と色づいた木々が、青い蓮の咲いた湖面をふわふわと漂っている。透明な童心にあふれた作品。画中の人物の顔を描かないのも想像を誘われてよい。

 実は東博とか根津美術館、静嘉堂など東京の美術館から来ている作品もあったが、あまり記憶に残っていなかった。残念ながら東京では、明清の絵画って出番が少ない気がする。それに比べると、関西のほうがファンの裾野が広いのではないかな。なお、私の参観当日(11/1)は、講堂でシンポジウムが開催されていたもよう。10時から12時の間だったので、誰も出て来なかった。
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