〇岡本綺堂他『見た人の怪談集』(河出文庫) 河出書房新社 2016.5
出先で、持っていた本を読み終えてしまったので、手近の本屋に飛び込んで、目についたままに買ってみた1冊。近代日本の作家が書いた怪談15編が収められている。巻末に詩人の阿部日奈子さんが解説を書いているが、どこをひっくり返しても、編者や選者の名前がない。オビに小さな文字で「とにかく最も怖いいろいろな怪談を15篇集める!」とあるのは、あまりに工夫のない宣伝文句で笑えるが、編者の顔が見えないという点で、なんとなく薄気味悪いアンソロジーである。
収録作品は以下のとおり。停車場の少女/岡本綺堂。日本海に沿うて/小泉八雲(訳・田部隆次)。海異記/泉鏡花。蛇/森鴎外。竈の中の顔/田中貢太郎。妙な話/芥川龍之介。井戸の水/永井荷風。大島怪談/平山蘆江。幽霊/政宗白鳥。化物屋敷/佐藤春夫。蒲団/橘外男。怪談/大佛次郎。沼のほとり/豊島与志雄。異説田中河内介/池田彌三郎。沼垂の女/角田喜久雄。
鴎外の「蛇」、平山蘆江の「大島怪談」、佐藤春夫の「化物屋敷」は読んだ覚えがあった。佐藤の「化物屋敷」は怖いなあ。語り手の「自分」が訳あり屋敷の長い階段を見上げたとき、なぜ気味悪く感じたかが、最後にさりげなく解き明かされているのだが、さりげなさすぎて、寒気がするほど怖い。
小泉八雲の「日本海に沿うて」には、子供の頃に読んだ「鳥取のふとん」の話が収められていて、海の怪談とともに、宿屋の女中が作者に語って聞かせた体になっている。橘外男(初めて聞く作家だった)の「蒲団」も似たシチュエーションの話だ。しかし、死者の遺物が蒲団の中に残っていて、関わる人に祟りを成すというのは、恐ろしいけれど合理的な(?)説明がつく。「鳥取のふとん」は、幼い兄弟の念が残って、その会話が聞こえるというもので、他人にむやみな不幸をもたらさない分、哀れが深い感じがする。
田中貢太郎の「竈の中の顔」は、なんだか説明がつかないところが怖い。踏み込んではいけない妖魔の世界を冒してしまったがゆえに、恐ろしい報復を受けるのだが、どこで結界を破ってしまったのかがはっきりしないのが怖い。このひとは日本と中国の怪談・奇談の名手といわれる作家である。久しぶりに読んだが、魔に魅入られたときの無力感が非常に面白かった。これに比べたら、鏡花のお化けなどは、目的がはっきりしていて怖くない。
芥川龍之介の「妙な話」、豊島与志雄の「沼のほとり」は戦争を背景とし、角田喜久雄の「沼垂の女」は、夫を失った「軍神の妻」とその母が終戦後に堕ちていく姿を描いている。こうした怪談に至るまで、日本の近代文学が戦争の影響抜きには語れないことを、あらためて感じた。
出先で、持っていた本を読み終えてしまったので、手近の本屋に飛び込んで、目についたままに買ってみた1冊。近代日本の作家が書いた怪談15編が収められている。巻末に詩人の阿部日奈子さんが解説を書いているが、どこをひっくり返しても、編者や選者の名前がない。オビに小さな文字で「とにかく最も怖いいろいろな怪談を15篇集める!」とあるのは、あまりに工夫のない宣伝文句で笑えるが、編者の顔が見えないという点で、なんとなく薄気味悪いアンソロジーである。
収録作品は以下のとおり。停車場の少女/岡本綺堂。日本海に沿うて/小泉八雲(訳・田部隆次)。海異記/泉鏡花。蛇/森鴎外。竈の中の顔/田中貢太郎。妙な話/芥川龍之介。井戸の水/永井荷風。大島怪談/平山蘆江。幽霊/政宗白鳥。化物屋敷/佐藤春夫。蒲団/橘外男。怪談/大佛次郎。沼のほとり/豊島与志雄。異説田中河内介/池田彌三郎。沼垂の女/角田喜久雄。
鴎外の「蛇」、平山蘆江の「大島怪談」、佐藤春夫の「化物屋敷」は読んだ覚えがあった。佐藤の「化物屋敷」は怖いなあ。語り手の「自分」が訳あり屋敷の長い階段を見上げたとき、なぜ気味悪く感じたかが、最後にさりげなく解き明かされているのだが、さりげなさすぎて、寒気がするほど怖い。
小泉八雲の「日本海に沿うて」には、子供の頃に読んだ「鳥取のふとん」の話が収められていて、海の怪談とともに、宿屋の女中が作者に語って聞かせた体になっている。橘外男(初めて聞く作家だった)の「蒲団」も似たシチュエーションの話だ。しかし、死者の遺物が蒲団の中に残っていて、関わる人に祟りを成すというのは、恐ろしいけれど合理的な(?)説明がつく。「鳥取のふとん」は、幼い兄弟の念が残って、その会話が聞こえるというもので、他人にむやみな不幸をもたらさない分、哀れが深い感じがする。
田中貢太郎の「竈の中の顔」は、なんだか説明がつかないところが怖い。踏み込んではいけない妖魔の世界を冒してしまったがゆえに、恐ろしい報復を受けるのだが、どこで結界を破ってしまったのかがはっきりしないのが怖い。このひとは日本と中国の怪談・奇談の名手といわれる作家である。久しぶりに読んだが、魔に魅入られたときの無力感が非常に面白かった。これに比べたら、鏡花のお化けなどは、目的がはっきりしていて怖くない。
芥川龍之介の「妙な話」、豊島与志雄の「沼のほとり」は戦争を背景とし、角田喜久雄の「沼垂の女」は、夫を失った「軍神の妻」とその母が終戦後に堕ちていく姿を描いている。こうした怪談に至るまで、日本の近代文学が戦争の影響抜きには語れないことを、あらためて感じた。