見もの・読みもの日記

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世界をめぐる多様性(ダイバーシティ)/染付(出光美術館)

2019-01-23 23:12:07 | 行ったもの(美術館・見仏)
出光美術館 『染付-世界に花咲く青のうつわ』(2019年1月12日~3月24日)

 白地に青でさまざまな文様を描くやきもの「染付」。この展覧会では、染付・藍彩など複数の技法におよぶ「青いやきもの」を視野に入れ、世界規模の多様性(ダイバーシティ)を示す。

 「染付」といえば日本、せいぜいその先蹤である中国の「青花」をカバーするくらいかと思っていたら、シリアやイランのやきものが出ているという噂を聞いて、ちょっと驚いた。会場では、冒頭に古代(紀元前)から近代(19世紀)までのオリエント(西アジア)世界の「青」の品々、やきもの、タイル、ガラス製品などが並ぶ。青色ガラスの香油瓶やガラス碗、白色ガラスや銀?のマーブル模様が宇宙の深淵のようで美しい。昨年のMIHOミュージアム夏季特別展『赤と青のひみつ』でも、オリエントの青に魅了されたことを思い出す。青を基調に人物やスフィンクスを描いた、イランの色絵皿(12-13世紀)も見た。ゆるい民画調でかわいかった。

 中国では14世紀の元時代に青のやきもの「青花」が完成するが、その背景には「色目人」と呼ばれた西アジアの人々の活躍があったと言われる。ここでは、西アジアの金属器の形にルーツを持つと思われる青花磁器を集中的に展示。積極外交政策をとった明・永楽帝の時代には、海外の王侯への贈答品に青花磁器が使われた。直径が60センチを超える青花の大皿は、イランなどに類品が見られるそうだ。こうした大皿は、本来は中国の食習慣には存在せず、車座になって大皿を囲む西アジアの宴会を想定したものだという。この話は、根津美術館の『やきもの勉強会 食を彩った大皿と小皿』でも聞いた。確かに中国の歴史ドラマを見ていると、宮廷などの宴会では一人一卓で食事をしている描写が多い。

 中国の各時代の官窯の特徴は、なかなか覚えられないので、何度でも書いておく。永楽帝時代の白磁は「甜白」という美称を献じられた。確かに白が美しいので青が映える。宣徳帝時代は、濃く鮮やかな発色の青花。次の成化帝時代(あわせて宣成と呼ぶ)は淡い色の絵付け、繊細で上品。成化帝の寵妃・萬貴妃とその周辺の好みの反映であるともいう。

 一方、明末に景徳鎮の民窯でつくられたのが「古染付」。これらも大好きだ。コロボックルみたいな『周茂叔文皿』に笑った。『梅鶯文皿』や『葡萄棚水指』も好き。官窯の徹底した品質管理と民窯のゆるさ、ふたつ合わせて中国文化だと思う。面白かったのは清・雍正年間につくられた『青花瓜文鉢』で、永楽帝時代の青花を模倣したもの。明の青花は、しばしば顔料に滲みを生じたが、清朝官窯の技術水準では、完全に滲みを駆逐していた。にもかかわらず、この作品では「明の青花らしさ」を徹底するため、点描で滲みを模しているという。これもまた中国らしい。朝鮮、ベトナムの染付を眺めて日本へ。伊万里や京焼のほかに、板谷波山が焼いた青系のやきものもあった。『彩磁印甸亞文花瓶』はネイティブ・アメリカンの土器文様に触発されて動物を描いたもの。かわいい。

 それから、中国の「豆彩」と日本の「鍋島」を中心に、染付に色を加えたやきものの見方(見え方)を考えるセクションも面白かった。中国の『豆彩牡丹唐草文柑子口瓶』や鍋島の『色絵更紗文皿』は、多様な色彩を精緻な文様に沿って配置しているのだが、あまり細部を見ようとせず、少し離れてぼんやりした気持ちで眺めると、使われていない中間色の色彩が見えてくる。青花の地に紅や臙脂紅で文様(龍など)を載せたものも、空間の奥行きが感じられないでもない。

 最後に「旅する染付」は私の大好きな主題。日本からの注文にしたがって景徳鎮でつくられたうつわ、日本や中国から輸出され、欧州で写されたうつわ。中には、愉しい誤解や不思議な雰囲気を生み出したものもある。私は、特に山水楼閣図の「伝言ゲーム」が好き。世界のどこにもないユートピアの雰囲気が感じられる。欧州だけでなく、イランやシリア(16世紀)にも、東アジアの染付とよく似た白と青のうつわがあることを初めて知った。ぐるぐる円環する模倣と影響の中で生み出される美。「対立と分断が世界に広がるこの時代だからこそ、やきものという世界規模の文化が語るものに注目します」という企画者のことばに共感した。
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