見もの・読みもの日記

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体験する美術/誤解だらけの日本美術(小林泰三)

2016-01-17 23:30:05 | 読んだもの(書籍)
○小林泰三『誤解だらけの日本美術:デジタル復元が解き明かす「わびさび」』(光文社新書) 光文社 2015.9

 著者はさまざまな日本美術をコンピュータを使って制作当時の姿に復元する研究をしている。私たちが「わびさび」の美意識で見ることに慣らされている日本美術が、当初は意外と派手な色彩だったというのは、だんだん常識化して、あまり驚かなくなってきた。本書は、色彩を復元したそのあとの楽しみ方が詳しく語られていたので、読んでみようと思った。登場する美術品は、俵屋宗達の『風神雷神図屏風』、キトラ古墳壁画、銀閣寺、興福寺の阿修羅像。

 宗達の『風神雷神図屏風』は、風神の緑、雷神の白の対比が際立つ、軽快で「品のよいド派手」な姿が現れる。さらに著者はこれを屏風に仕立てて立体化してみる。屏風の金箔のタイル模様を再現する工夫が面白い。そして、できあがった屏風の前に座ってみると、雷神が見下ろしている視線を感じる。実は、宗達と光琳の『風神雷神図屏風』を比べると、大きな違いのひとつが雷神の視線で、光琳の雷神は右隻の風神と視線を交わしているように感じられる。けれど宗達の雷神は、屏風の外に視線を向けているのだ。それから照明を弱めて、夕陽のように横から当てると、さらに屏風の表情が変わって、風神と雷神がゆったりと浮遊して、前に飛び出してくる感じになったという。見たい! 著者もいうとおり、こうした実験は本物では難しい。そこで精巧なデジタル複製が威力を発揮するのだ。

 キトラ古墳壁画の復元の試み(けっこうアナログ)を紹介したあと、著者は2014年の東博の『キトラ古墳壁画』展に触れて、待っている間に「空間」を体感して楽しんでもらうべきだった、という意見を述べている。これは完全に同意。ちなみに奈良の飛鳥資料館には、実際の墓室をイメージできる「陶板複製」があったと思う。

 銀閣寺は、完全にコンピュータ・グラフィックスだけでの復元である。記録に忠実に、屋根の裏側には繧繝模様の彩色を施し、銀閣の壁を黒漆で塗ってみる。そこに満月の光を当てる。さらに正面にあったという池に反射した月の光が、下から銀閣を照らす効果を加味してみると、やわらかな光につつまれた、まさに銀の楼閣があらわれた。著者の記述を信じるなら、はじめから想定した結果ではなく、さまざまなエフェクトを積み上げていった末に、偶然、銀閣の真の姿が発見されたことになっている。CGってそんなことができるのか。面白い。

 阿修羅像の復元は、とにかくド派手な姿である。これが当初の姿だと言われても、正直、仏像だけはやっぱり年代を経た姿でないと受け入れがたい。ただ、腕の向きが今とは微妙に違ったのではないかという推定が面白い。著者は、いちばん外側の左右の手には日輪・月輪を戴かせ、次の手には弓と矢を持たせ、最後の手は合掌でなく、胸の前に法輪を捧げる姿に復元している。確かに落ち着く感じはする。

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