付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「ママは何でも知っている」 ジェイムズ・ヤッフェ

2015-11-01 | ミステリー・推理小説
「自分でもない、家族でもないものに血道をあげている人間--たとえば、ニューヨーク・ヤンキースとか、レナータ・テバルディとかに熱をあげている連中はね、その熱たるや、個人的な悩みごととか、野望なんかより、はるかにはげしいものなのよ」
 デイビット刑事のママは「連中には連中の世界があるの」と告げた。
 つまりアニメやマンガやゲームであろうが、野球やオペラであろうが、マニアの世界は関心のない人間にとってはミステリのテーマになるくらい、未知の領域なのだ。
 でも、ママ。バットマンは空を飛ばないんだ。滑空はするかもしれないけど。

 ブロンクスの殺人課の刑事デイピットは、毎週金曜の夜には妻を連れて実家のママのもとを訪れ、夕食を共にするのが習慣だ。
 そのディナーの席でデイビットがぽろりと漏らした捜査上の謎を、幾つか質問をしただけで簡単に解決してしまうのがママだ。
 ママは人間ってものがどうふるまうかなんて、世間一般も殺人現場も変わらないというのだ……。

 安楽椅子探偵の古典的作品で、狭い世間でしか生きてないと思われがちな女性が人間のやること考えることなんて、どこでもたいして変わらないと謎を解いていくあたりは、田舎だってそんなにのどかで平和なところじゃないと語るミス・マープルと同じ。『ママは何でも知っている』が1952年で、クリスティの『火曜クラブ』が1927年なので、さしづめ「ミス・マープルのライヴァルたち」といったところかな。
 ディナーの会話が謎解きに終始すれば普通の安楽椅子ミステリなのだけれど、デイビットの妻であるシャーリィが口をはさみ始めると、瞬く間に嫁姑戦争になり、そちらはそちらでサスペンスです。

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コメント
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