付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「百万畳ラビリンス(上)(下)」 たかみち

2015-11-07 | 破滅SF・侵略・新世界
「与えられた選択肢が最善とは限らないもの。ちゃんと自分で判断したいの」
 玖波島礼香は自分の行動を支配されるのを嫌う。

 ゲーム制作会社でデバッグのアルバイトをしていたはずの女子大生2人は、いつの間にか見知らぬ空間に放り込まれていた。畳や襖、床の間にガラス窓と、どこかで視たような古い建物のパーツの組み合わせでありながら、和室の畳部屋や階段が無限に続く巨大な建造物。どれだけ襖を開け、廊下を抜けて、階段を昇り降りしても出口はない。
 だが途方に暮れる庸子に対し、礼香は人見知りの大学生で、幼い頃から周りの環境に溶け込むのが苦手ではあったけれど、ゲームのバグを探し出すことにかけては他の追随を許さない。畳をこじ開け、窓を破って外壁を伝わり、ちゃぶ台を積み上げ、この不条理な迷宮を踏破していく。
 現実世界に居場所のない礼香にとって、このゲーム的な世界こそ唯一心から楽しめる場所だったのだ……。

 現実世界によく似ているけれど裏側はハリボテの世界というと、今では仮想現実の概念が広まったおかげなのかアニメなどでも普通に見られるけれど(もしかしたら因果関係は逆かもしれない)、なぜかキース・ローマーだかシマックだかの70年代SFのテイスト(「都市への道」だっけ?)を感じてしまったのは、迷宮が畳と襖で構成されているせいなのかも。
 とはいえ、無限に連鎖する四畳半とか、虚構世界からの脱出とか、似たような素材を使った作品はいろいろあるけれど、この作品はまず礼香と庸子のバディ・ストーリーであり、2人がそれぞれの立ち位置を確認し、旅立つまでの物語なんです。そこが良い。

【百万畳ラビリンス】【たかみち】【ヤングキングコミックス】【本格長編SFミステリー】
コメント
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