
一の谷老人は肩をすくめてそういった。
多々良島の観測所を再開させるべく、島へと向かう調査船で密航者が発見された。
密航者の女は毎日新報の記者、江戸川由利子だと名乗り、同行取材を申し入れてきた……。
本編の後日譚的なものから新解釈のオリジナルまで、怪獣ブーム下で育った7人の作家が書いたウルトラ怪獣小説集。
「ウルトラ怪獣アンソロジー」というタイトルから読者がもっとも期待したとおりの作品というと、やはり表題作である山本弘の「多々良島ふたたび」。本篇の生き残りである松井を主人公に、ウルトラQとウルトラマンの設定とストーリーを巧く融合させ、多々良島にあれほどの怪獣が集中して出現した謎を解き明かす後日譚。
「影が来る」もよく出来ていたけれど、これはウルトラ小説というよりウルトラQ小説なのでちと違う。
自分が変身できなくなったウルトラセブンだと言い張る男と精神科医のエピソード「変身障害」はウルトラシリーズをネタにした一般小説になるかと思いきや、ひねりが一周回って、ちゃんとウルトラ怪獣小説になっていて、本編のサイドストーリーになってしまったのが予想外。そう来たかと。
それぞれの作者の解釈とこだわりで、個性あふれていて飽きさせない1冊となっています。
ただ、執筆陣が第一次ウルトラブーム直撃世代中心なので、どうしてもテーマが「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」が中心になってしまっているのが特色といえば特色。次はもっと若い世代で平成シリーズあたりでやってくれてもいいかなあと思いました。平成ウルトラシリーズは「ウルトラマンメビウス」や「ウルトラマンマックス」で旧シリーズの総括的というか後日譚的な好エピソードが多いのですが、まだまだ余地はあると思います。
そしてなんやかんやわけのわからん話だなあと思っていたらいきなり地口落ちで締めてきた作品があり、これが田中啓文が書いたやつかな?!と思ったら別の作家だったという意外な驚きもありました。こういうオチ、笑って良いかどうか、よくわからんのです……。
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