付け焼き刃の覚え書き

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「コミケへの聖歌」 カスガ

2025-02-06 | 破滅SF・侵略・新世界
『文明無き所に文化は生じ得ぬし、文化無くしては文明はその意図を見失わざるを得ない』
 生存の為にと書物を焼き、文化を放擲したのだから文明の破綻は必定だったと安日彦の備忘録。

 2034年の火山の大噴火を契機に世界の歯車は狂った。食糧危機となり、戦争が起こり、瞬く間に文明は崩壊した。
 イリス沢は廃京から10日ほど北にある山間の集落。人々は日々を生きるのに精一杯だが、そんな中でも少女たちは「部室」で「部活」にいそしんでいた。そこにはヒノモト政府による暗黒期の焚書を生き残った小説やマンガが100冊ほど集められており、彼女たちはそんな時代に、生きる為に忙しい日課の合間に部室に集まり、お茶を愉しみ、使い古しのノートにマンガを描いていた。だって、そういうものだって本に書いてあったから。
 彼女たちの夢はいつかコミケに行くこと。ここにこうやってマンガを描いている少女たちがいるのだから、塩水の海の方へ行ったらもっといっぱいマンガを描いてる人がいるよ。きっと……。

 「学校」が子供を集めて文字や計算を教える場所ということすら知らない少女たちが、本から得た断片的な知識で放課後を再現しようとしている中、見つけ出された地図が彼女たちの「あたりまえ」を大きく揺り動かすことになります。
 文明が崩壊しようとしているときに、盲目的に暴力に走る者たちの支持を受けて誕生した独裁政権だけれど、科学とか理屈とか放り出して自分の思い描く正義を暴力でなんとかしようとした先に待っているのは破滅だけなのだ。その独裁政権も東京の赤い霧と共に消えたけれど、書物や教育という概念まで消えてしまった22世紀。そんな未来なんか来ないと信じたくても、風邪対策にマスクをしようということだけですら賛否両論で、エセ科学や自分理論を振りかざす人間が少なくないことを見せつけられたこの時代。嫌な説得力がありますね。

【コミケへの聖歌】【カスガ】【toi8】【早川書房】【ポストアポカリプス部活小説】【コミケ遠征のしおり】【ナノマシーン】【リチャード・ジェフリーズ『ベヴィス』】
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