付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「いだてん〜東京オリムピック噺〜」 脚本:宮藤官九郎

2019-12-16 | スポーツ・武道
「オリンピックは2週間かけてやる盛大な運動会だ。お祭りだ」
「何だよ、戦犯って! 戦争じゃない。スポーツやってんだよ、こっちはよ!」


 2019年放送のNHK大河ドラマ。まだスポーツなんて概念が日本にない明治時代から太平洋戦争を経て1964年に開催された東京オリンピックまでのおよそ50年間の物語を、日本人初のオリンピック選手となった金栗四三を主人公にした第1部と、東京オリンピック招致に尽力した田畑政治が主役の第2部という構成で語ったスポーツ群像劇。教科書では簡単に流されがちで、それ以外は右だ左だと思想的に偏って語られたり、あるいは庶民レベルのミクロ視点でしか語られなかった日本近現代史にがっつり取り組んだ意欲作。

 放映開始当初は、東京五輪目前の東京の寄席で開かれた古今亭志ん生の語りと、20世紀初頭の金栗四三の成長期など複数の時代と場所が交錯して、分かりにくい、つまらないと言われていたものが、見ているうちに日本初のオリンピック選手派遣に向けて奔走する柔道家・嘉納治五郎とか、志ん生の弟子・五りんを取り巻く人々のエピソードによって、いつの間にか1つにまとまっていく面白さに魅了されます。たった2人の選手団、ハズレ続ける占い、止まらないストップウォッチ、スポーツに政治を介入させ、政治がスポーツに介入し……と、伏線の回収というか、因果応報とか、歴史は繰り返すというか、受け継がれるもの、しっぺ返しを食らうもの、シナリオ展開の妙が素晴らしいと思います。フラグ処理は完璧。「やりたがらない女性に運動をさせる」ところから始まり「女性がスポーツをしたくてもさせてもらえない」ところから、「スポーツで活躍する女性がバケモノ呼ばわり」される時代になり、最後に東京オリンピックでの“東洋の魔女”に結実する女性スポーツ史としての流れも見事。
 一方で、ある面では頭の古い分からず屋だけれど一面では高潔な人物だったり、熱意あるスポーツマンだけれどヤマ師的な言動が多かったりと、二面性三面性を持つ奥行きのあるキャラクター造詣も絶妙。「このドラマは史実を基にしたフィクションです」と断り書きは出るけれど、とにかく虚実入り交じっているけれど、普通の歴史ものとは逆に「こんな奴、いないよ」と言いたくなるキャラクターが実在の人物で、「こんなことあるわけない」と言いたくなるエピソードが史実で、近現代史って面白いなあと思います。嘘というかもしれないけれど、本人の日記にそう書いてあったもの。ムチャクチャと言いたくなるけど、故人を知る人が「本人そのまんま」って言うんだもの。美川くん、実在かよ。
 開会式当日が雨天と思い込んでブルーインパルスのパイロットたちが夜更けまで呑んだくれていたのも、志ん生が高座に「富久」をかけていたのも、いきなり独立しちゃって北ローデシアから名前が変わったザンビアの国旗が閉会式に間に合ったのも、金栗四三が54年と8ヶ月6日5時間32分20秒3でゴールテープを切ったのも史実なのだ。

 東京オリンピック2020の前年に放映されたものだから「東京2020におもねったご機嫌取り番組」みたいに視てもいない人に言われることはあるけれど、実際はまったく逆。参加する選手がどれだけ真摯に全身全霊をかけていても政治の都合ですべてが二転三転し、マスコミの無責任な報道で国民から叩かれ、予算は足りなくて個人負担が大きく、準備は間に合わずてんやわんやで、誰も彼もが翻弄される姿が、なぜか明治から昭和のスポーツ史を描いているだけなのに、脚本も撮影も早くに済んでいるはずなのに、現在のオリンピックを取り巻く状況にぴったり当てはまる不思議というか皮肉。マスコミに切り取られた断片だけで、テレビに映る田畑政治をあざ笑う視聴者の姿は、視ている現代の人々の映し鏡なのです。

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