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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

歌うクジラ

2011-04-28 20:52:13 | 読んだ本
村上龍 2010年10月 講談社(上・下巻)
ひさしぶりに村上龍の新刊を読んでみた。
って、去年買っといて、ずっと放っておいたんだけど。まずいなーと思ってたんで、週末の出張の機会に、行き帰りの新幹線のなかとか、土曜の晩とかに(フラフラ遊びに行ったりしないで)、読書することに決めて、まずはこれを読んだ。
面白いです。なんも予備知識なしで読んだんだけど、なんとSF。舞台は22世紀、2117年かな。
2022年に発見された不老不死の遺伝子によって、社会のある層の人は寿命が延ばされ、逆に犯罪者などは急激に老化させられて死に至るという医学的刑罰が与えられるような、世のなかになっている。
で、その遺伝子の発見が、クジラ、九世紀初頭に作られたグレゴリオ聖歌を歌うザトウクジラが海で見つかり、そのクジラの年齢が最低でも1400歳と推定され、その細胞などのサンプルを調べることによって、わかったという逸話がある。美しい伝説ですね。
それはいいとして、社会は、「棲み分け」が進んでいて、最上層と上層、中間層と下層に区分けされている。
個人情報の集約的管理とか、警備ロボットによる治安維持とか、そのへんSFらしく、でも暗い反ユートピア的な感じで描かれている。
キーポイントのひとつとして、「文化経済効率化運動」という2050年ころの社会の動きがあって、世のなかのゼータク的なものはすべて無くされてしまってるとともに、言語も統制されて、敬語などが消滅してる。要は、権力の上にたつ側が、一般市民には何も与えず、反抗する思想すらも浮かばないように教育とかもしちゃうシステムを作り上げたものと思われる。
最近フィリップ・K・ディックとか少し読み返したばかりなので、そのへんに似た雰囲気を感じた。なんか今までの村上龍作品っぽくない。でも想像力は評価する。
物語は、亡くなった父親の希望をかなえるために、15歳の少年が旅をするというのがメインストリーム。ときに戦い、ときに逃げ、目指す場所はどこで何が待っているのかわからないけど突き進む、めまぐるしい移動だけど、そういう冒険的な旅はSFっつーかファンタジーの基本だと思います。
コメント
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