ロバート・B・パーカー/加賀山卓朗訳 2012年 ハヤカワ・ミステリ文庫版
帯に「最新刊」ってあるけど、5年前のもの、版重ねたりしてない、売れ残りの文庫新刊、ことし3月くらいに買ったと思う。
読んだのは、例によってどこかへの出張道中、夏のあいだのいつか。
スペンサー・シリーズの38作目、原題は「Painted Ladies」、貴婦人ってのは、絵に描かれた貴婦人。
依頼人は美術史の大学教授で、17世紀の名画『貴婦人と小鳥』が美術館から盗まれて、要求されたとおり金と交換することになったが、その場へ護衛として同行してほしいという。
ところが車の運転席で取引が終わって教授が戻ってくるのを待っていると、目の前で教授は殺害されてしまう。
誰であっても防げたとも思えないが、当然スペンサーは気に入らない、プライドというより存在価値をかけて、事件を解決しようと意志固める。
かくして、誰も依頼人がいないのに、一銭にもならないのに、捜査を始める、なんかシリーズ後半に入ってこのパターン多いな。
でも、関係する美術館とか保険会社とか行っても、当然のことながら歓迎されない。
どんなことでもとっかかりがほしくて、過去のシリーズのコネクション総動員してFBIとか美人弁護士のリタとかお馴染みにも情報求めたりもする。
あと大学へ行って、女子学生に自分の魅力をチラっと見せること意識ながら話を聞こうとするのは、シリーズ序盤から変わんないお決まりのパターン。
ちなみに、大学周辺で関係者にあたってくと、死んだ依頼人の教授はあんまりいい人でもなかったような気配が見えてくる。
で、あっちこっち突っつきまわったのが功を奏したのか、ある日スペンサーのオフィスに待ち伏せる襲撃者が現れる。
このときの対処が、いかにもスペンサーシリーズ。
ドアを開ける前に異変に気づくと、通りの反対側の建物に行って、そこから自分のオフィスを双眼鏡でのぞいて、敵が二人ひそんでいるのを見つける。
そしたら銃を用意して、オフィスの扉にもどり、ドアを開けて、敵が動き出すをの待って、撃ち殺す。
狙われてるのがわかった時点で警察呼んだりしないのか、そういう一般市民的な疑問は、スーザンが代わりに訊いてくれるのがこのシリーズだ、「どうして警察を呼ばなかったの?」
スペンサーの答えは「考えてもみなかった」だ。スペンサーは理解者スーザンに言う、「訊くまえから、きみには答えがわかってた」
スペンサーいわく「おれがいましてることを続けたければ、トラブルに際して警察を呼ぶ男であってはならない」(p.125)
さすが、依頼人も報酬もないのに自分のために事件を追っかける男は根性がちがうんである。
悪党を撃ち殺しても、地元警察に絶大なる人気があるので、すぐ無罪放免されて、なお捜査を続ける。
そうすると二度目の襲撃、こんどは自宅に爆弾がしかけられる。
家ごと吹っ飛ばすとかって凶暴なのぢゃなくて、ベッドに座ったら人ひとり殺す分の爆発起こすようなもの、高度なプロの仕事。
運よく難を逃れたスペンサーに、お馴染みの部長刑事ベルソンが、ヴィニイでもチョヨでもテディ・サップでも、誰かシリーズ登場人物の腕利きガンマンをバックアップに呼んだらどうかって提案する。
ところが、スペンサーは首を振って「こいつはおれが追う」と言う、この一件に関してはかなり意地になってる、存在価値がかかってるからね。
で、次第に事件の核心に迫ってくと、ホロコーストのあいだにナチスに奪われた美術品を正当な所有者にとりかえす財団、なんて大がかりな話になっていく、そういう歴史的な問題につながる展開は珍しいような気がする。
ま、事件はどうせ解決するからいいんだけど、本作で印象に残ったシーンには、最初の襲撃のあとで、スペンサーが家でひとりでブラック・ブッシュのロックを飲みながら考えるとこがある。
>強烈な幸福感をともなう瞬間は、すべてスーザンとすごしてきた。彼女を見るたびに、ぞくぞくするような興奮を覚える。(略)
>それでも、こうして立って、動きのない通りを見おろしていると、孤独を愛しているのがわかる。(p.149)
っていうんだけど、前段はめずらしくもない、いつものことなんだが、そのあと、会えなくて寂しいとかって言うことがシリーズ中盤から多かった気がするんで、ちょっと変わったモノローグと感じた。
そのあとには「私たちはまったく似ていない」とも独白する。危機回避についてディスカッションして、オトナになったかあ。
帯に「最新刊」ってあるけど、5年前のもの、版重ねたりしてない、売れ残りの文庫新刊、ことし3月くらいに買ったと思う。
読んだのは、例によってどこかへの出張道中、夏のあいだのいつか。
スペンサー・シリーズの38作目、原題は「Painted Ladies」、貴婦人ってのは、絵に描かれた貴婦人。
依頼人は美術史の大学教授で、17世紀の名画『貴婦人と小鳥』が美術館から盗まれて、要求されたとおり金と交換することになったが、その場へ護衛として同行してほしいという。
ところが車の運転席で取引が終わって教授が戻ってくるのを待っていると、目の前で教授は殺害されてしまう。
誰であっても防げたとも思えないが、当然スペンサーは気に入らない、プライドというより存在価値をかけて、事件を解決しようと意志固める。
かくして、誰も依頼人がいないのに、一銭にもならないのに、捜査を始める、なんかシリーズ後半に入ってこのパターン多いな。
でも、関係する美術館とか保険会社とか行っても、当然のことながら歓迎されない。
どんなことでもとっかかりがほしくて、過去のシリーズのコネクション総動員してFBIとか美人弁護士のリタとかお馴染みにも情報求めたりもする。
あと大学へ行って、女子学生に自分の魅力をチラっと見せること意識ながら話を聞こうとするのは、シリーズ序盤から変わんないお決まりのパターン。
ちなみに、大学周辺で関係者にあたってくと、死んだ依頼人の教授はあんまりいい人でもなかったような気配が見えてくる。
で、あっちこっち突っつきまわったのが功を奏したのか、ある日スペンサーのオフィスに待ち伏せる襲撃者が現れる。
このときの対処が、いかにもスペンサーシリーズ。
ドアを開ける前に異変に気づくと、通りの反対側の建物に行って、そこから自分のオフィスを双眼鏡でのぞいて、敵が二人ひそんでいるのを見つける。
そしたら銃を用意して、オフィスの扉にもどり、ドアを開けて、敵が動き出すをの待って、撃ち殺す。
狙われてるのがわかった時点で警察呼んだりしないのか、そういう一般市民的な疑問は、スーザンが代わりに訊いてくれるのがこのシリーズだ、「どうして警察を呼ばなかったの?」
スペンサーの答えは「考えてもみなかった」だ。スペンサーは理解者スーザンに言う、「訊くまえから、きみには答えがわかってた」
スペンサーいわく「おれがいましてることを続けたければ、トラブルに際して警察を呼ぶ男であってはならない」(p.125)
さすが、依頼人も報酬もないのに自分のために事件を追っかける男は根性がちがうんである。
悪党を撃ち殺しても、地元警察に絶大なる人気があるので、すぐ無罪放免されて、なお捜査を続ける。
そうすると二度目の襲撃、こんどは自宅に爆弾がしかけられる。
家ごと吹っ飛ばすとかって凶暴なのぢゃなくて、ベッドに座ったら人ひとり殺す分の爆発起こすようなもの、高度なプロの仕事。
運よく難を逃れたスペンサーに、お馴染みの部長刑事ベルソンが、ヴィニイでもチョヨでもテディ・サップでも、誰かシリーズ登場人物の腕利きガンマンをバックアップに呼んだらどうかって提案する。
ところが、スペンサーは首を振って「こいつはおれが追う」と言う、この一件に関してはかなり意地になってる、存在価値がかかってるからね。
で、次第に事件の核心に迫ってくと、ホロコーストのあいだにナチスに奪われた美術品を正当な所有者にとりかえす財団、なんて大がかりな話になっていく、そういう歴史的な問題につながる展開は珍しいような気がする。
ま、事件はどうせ解決するからいいんだけど、本作で印象に残ったシーンには、最初の襲撃のあとで、スペンサーが家でひとりでブラック・ブッシュのロックを飲みながら考えるとこがある。
>強烈な幸福感をともなう瞬間は、すべてスーザンとすごしてきた。彼女を見るたびに、ぞくぞくするような興奮を覚える。(略)
>それでも、こうして立って、動きのない通りを見おろしていると、孤独を愛しているのがわかる。(p.149)
っていうんだけど、前段はめずらしくもない、いつものことなんだが、そのあと、会えなくて寂しいとかって言うことがシリーズ中盤から多かった気がするんで、ちょっと変わったモノローグと感じた。
そのあとには「私たちはまったく似ていない」とも独白する。危機回避についてディスカッションして、オトナになったかあ。