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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

言葉の嵐

2017-10-07 18:02:16 | 読んだ本
春風亭小朝 2000年 筑摩書房
“春風亭柳朝一代記”を読んだ直後に、古本市で小朝の本を見つけたんで、思わず買ってしまった。
そういえば小朝の著書って、あまり見かけた記憶がないと思って。
本書は、全篇書き下しエッセイ集ということで、特に落語論とかってわけぢゃなく、冒頭には「この本には、私のお気に入りの言葉が、いっぱいでてきます」とあるように、なんかそういう系のもの。
ただ、なんせセンスのいいひとなので、好きな言葉とそれについて考えること書くときたら、ちょっと期待するものはある。
あと、開いてみたら、写真がいっぱい。なかば写真集みたい。
エッセイのほうは、わりと上下行間に余裕のある造作で一篇あたり5ページ程度といったところか、短め。なので、よけいに写真のボリュームが多くみえる。
さて、主題の言葉のほうは、いろんなひとのいろんな発言が集められてたりして、まずまずおもしろい。
けど、やっぱ落語に関すること書いてるとこが、興味をひかれる。
誰の言葉か知らないけど、「できる人はやり、できない人は教えたがる」って言葉を冒頭にかかげた章では、
>最初は力のない人が、何年か経ってはじめて力のある人がやさしく声をかけてくれるのが我々の世界です。(p.54「教えることと学ぶこと」)
なんて、ちょっとドキッとすること書いてある。
自身の落語公演のことについては、博品館劇場での三十日間連続独演会とか、日本武道館独演会とか、でかいことやろうとすると、周囲は驚いてるのに、
>でも、、私自身に不安はなく、その時点で、超満員のお客様と一緒に千秋楽をむかえている自分の姿が見えていました。もちろん、これにはなんの根拠もありません。私は決して楽天的な性格ではありませんが、いつもうまくいっている姿しか頭に浮かんでこないのです。(p.79「予感について」)
と、すごいこと言ってたりする、成功のイメージしかしない人だったんだ、意外な気もするけど、そう言われればそうなのかもしれない。
話が落語のことぢゃなくて、天ぷらのことなんだけど、そこで「粋」について解説してくれてるとこも面白い。
粋ってのはなにか、それはツボを心得ているかどうかだという小朝の言葉はわかりやすく聞こえる。
>さて、粋がツボを心得ていることだとするなら、粋の親戚筋に品という言葉があります。品とはいったいなんでしょう。
>ズバリ、品のツボは、腹八分目です。(略)(p.112-113「粋」と「品」)
いいですねえ、こういうふうにわかってるから、高座で江戸の風を吹かせることができるんでしょう。
どうでもいいけど、本書を一読したとき、私がいちばん、オッ、これは、って感心したのは次の一節だったりする。
>これ、持論ですが、その女のコがどんなコか知りたかったら、お弁当を作ってもらうのがてっとり早いと思います。お弁当には女のコの性格が出るんですよ。料理の腕なんて関係ありません。人柄です、人柄。(p.138「見る事見られること」)
目のつけどこがちがうよ、いい了見だ、さすが小朝。
コンテンツは以下のとおり。
〈はじまり、はじまり〉
健康と不健康
プロフェッショナルとは
芸の底を見る
脱力のすすめ
嫉妬について
精神の薄弱
教えることと学ぶこと
「だまされやすい人」について
百歳の悪意
予感について
「僕は嫌われたくない」
天才・秀才……
疲労について
「粋」と「品」
プライド
コンプレックスについて
再びコンプレックスについて
見ること見られること
師匠の死
悪口について
アナログ讃
人は皆「話したがり」?
愛するものを幸せにすること
一流の演者と一流の観客
フィナーレ
〈おしまい、おしまい〉
コメント
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