デイモン・ラニアン/加島祥造訳 1987年 新書館
この翻訳短編集は、“ブロードウェイ物語4”ということになっていて、『ブロードウェイの出来事』と『ロンリー・ハート』といっしょに私は古本屋で手に入れた。
どうでもいいけど、発行当時の定価と比べると、これがいちばん値段が高かった。
稀少なのかな、そのへんの事情は詳しくない、読んでおもしろければそれでいいのだ。
ちなみに、タイトルとしてつけられた「THE SMELL OF RAIN ON THE PAVEMENT」というのは、ラニアン原作から生まれたミュージカル「Guys and Dolls」のなかの「My time of day」という歌の一節だそうだ。
「見事なストリップ」Neat Strip(1938年)
>こんなふうに話してくると、そんなすばらしい女が何でバーレスク・ショーみたいなちゃちな舞台に出ているのかと言うかもしれない。たしかにバーレスクなどはショーとしては最低のショーさ。だからあんたがこういう質問するのはよく納得できる。そこでこの質問に対する答はだね、「田舎出」のゴールドシュタインがローズ・ヴァイアラに週四百ドルも払っているということさ。週四百ドルといえばけっして端下金じゃないぜ。
「バーベキュー」Barbecue(1941年)
>実際のところ、彼の話だと、ずっと若いころは歌手になりたくって、ある晩ニューヨークのコロニアル劇場の素人のど自慢に出演するんだそうだ。すると当時のアマの歌手は競りあってるから、誰かが客席からホーマーに蕪を投げつける。それが「優しいアリス」を歌ってる彼の喉仏にあたって声帯をこわしちまう。それ以来舞台むきの声はぷっつり出なくなる。歌うとしたらせいぜい舞台裏でってことになるわけだ。
「鉄道員の娘」The Brakeman's Daughter(1933年)
>「蜂雀」って男は自惚れ屋だけれど、そうと信じこむのも無理はない。彼には若さがあるし、顔立もいいし、いつもいい服を着ていて、結構気のきいた話もする。女って、とくに若い女は、こういう男にすごく惹かれるものなのさ。ただ、どうも合点がいかない人間もいると思うんだ、だって、「愛想笑い」がそんな素敵な美女を知ってるはずはないからだ。
「ボクサーの血筋」Bred for Battle(1935年)
>とにかく、スパイダーの持ちこんだ話は取引としてもわりかし安全な話に思われるんで、おれは、ニューアークに行く旅費として五ドル札を彼に渡す。それから一週間、おれはスパイダー・マッコイに会う機会がない。すると、ある日、スパイダーから電話がかかってくる。すぐにパイオニアジムに来てくれ、未来の世界ヘビーウェイト・チャンピオン、「雷撃(サンダーボルト)」マルーニーに会わせるから、と言う。
「高い賭率」A Nice Price(1934年)
>そのうち「悪党」サムが、手に百ドル札を二枚ばかり持って、人混みをかきわけて前に出て行く。「南通り」のベニーも彼のすぐうしろにつづく。「その立でハーバードのほうに少しばかり賭けたいですね」と「悪党」サムは金を半白の男にさしだす。
「きつ過ぎる靴」Tight Shoes(1936年)
>というわけで二人は二杯目の酒を飲む。それから三杯目、四杯目となり、そのうち二人は新婚夫婦みたいに仲よくなる。ルパート・ソルシンガーはカルヴィン・コルビーに、靴のこと、「いたち」のハイミーのこと、店主のビルビーのこと、ミス・ミニー・シュルツのことを話して聞かせる。
「黒髪のドロレス」Dark Dolores(1931年)
>そのうちにベニーがドロレスとさかんに話をしているのに気がついて、「ガキ顔」シエイと「強引」マイクは、ここでもう一度じっくりと彼女を見てみる気になるらしい。それに、ジョー・ゴスの店の酒をしこたま飲んだあとの目でドロレスを見るんだから、たぶん彼女が実物の十倍ぐらい美人に見えるんだろうな。ここでとくに言っておきたいけど、ドロレスの十倍も美人なんてのは夢の中でなきゃあお目にかかれないぜ。
「懐かしのケンタッキー」Old Em's Kentucky Home(1939年)
>ところが馬主の「鉄兜」イッキーは、トウイッチがどんなに馬を痛めつけるかってことを気にするばかりでなく、エム号のような馬にとってはこれはもうまったく屈辱そのものだと考える。イッキー以外の人間はエム号を老いぼれののろま馬としきゃみていないが、イッキーにはエム号は世界一の名馬だ。その馬が苦痛と屈辱にさいなまれるのは見るに忍びないと考えるらしい。実際イッキーはこの老馬を世界の何よりも、最愛の妻マウジーをも含めて、誰よりも熱愛しているんだ。
この翻訳短編集は、“ブロードウェイ物語4”ということになっていて、『ブロードウェイの出来事』と『ロンリー・ハート』といっしょに私は古本屋で手に入れた。
どうでもいいけど、発行当時の定価と比べると、これがいちばん値段が高かった。
稀少なのかな、そのへんの事情は詳しくない、読んでおもしろければそれでいいのだ。
ちなみに、タイトルとしてつけられた「THE SMELL OF RAIN ON THE PAVEMENT」というのは、ラニアン原作から生まれたミュージカル「Guys and Dolls」のなかの「My time of day」という歌の一節だそうだ。
「見事なストリップ」Neat Strip(1938年)
>こんなふうに話してくると、そんなすばらしい女が何でバーレスク・ショーみたいなちゃちな舞台に出ているのかと言うかもしれない。たしかにバーレスクなどはショーとしては最低のショーさ。だからあんたがこういう質問するのはよく納得できる。そこでこの質問に対する答はだね、「田舎出」のゴールドシュタインがローズ・ヴァイアラに週四百ドルも払っているということさ。週四百ドルといえばけっして端下金じゃないぜ。
「バーベキュー」Barbecue(1941年)
>実際のところ、彼の話だと、ずっと若いころは歌手になりたくって、ある晩ニューヨークのコロニアル劇場の素人のど自慢に出演するんだそうだ。すると当時のアマの歌手は競りあってるから、誰かが客席からホーマーに蕪を投げつける。それが「優しいアリス」を歌ってる彼の喉仏にあたって声帯をこわしちまう。それ以来舞台むきの声はぷっつり出なくなる。歌うとしたらせいぜい舞台裏でってことになるわけだ。
「鉄道員の娘」The Brakeman's Daughter(1933年)
>「蜂雀」って男は自惚れ屋だけれど、そうと信じこむのも無理はない。彼には若さがあるし、顔立もいいし、いつもいい服を着ていて、結構気のきいた話もする。女って、とくに若い女は、こういう男にすごく惹かれるものなのさ。ただ、どうも合点がいかない人間もいると思うんだ、だって、「愛想笑い」がそんな素敵な美女を知ってるはずはないからだ。
「ボクサーの血筋」Bred for Battle(1935年)
>とにかく、スパイダーの持ちこんだ話は取引としてもわりかし安全な話に思われるんで、おれは、ニューアークに行く旅費として五ドル札を彼に渡す。それから一週間、おれはスパイダー・マッコイに会う機会がない。すると、ある日、スパイダーから電話がかかってくる。すぐにパイオニアジムに来てくれ、未来の世界ヘビーウェイト・チャンピオン、「雷撃(サンダーボルト)」マルーニーに会わせるから、と言う。
「高い賭率」A Nice Price(1934年)
>そのうち「悪党」サムが、手に百ドル札を二枚ばかり持って、人混みをかきわけて前に出て行く。「南通り」のベニーも彼のすぐうしろにつづく。「その立でハーバードのほうに少しばかり賭けたいですね」と「悪党」サムは金を半白の男にさしだす。
「きつ過ぎる靴」Tight Shoes(1936年)
>というわけで二人は二杯目の酒を飲む。それから三杯目、四杯目となり、そのうち二人は新婚夫婦みたいに仲よくなる。ルパート・ソルシンガーはカルヴィン・コルビーに、靴のこと、「いたち」のハイミーのこと、店主のビルビーのこと、ミス・ミニー・シュルツのことを話して聞かせる。
「黒髪のドロレス」Dark Dolores(1931年)
>そのうちにベニーがドロレスとさかんに話をしているのに気がついて、「ガキ顔」シエイと「強引」マイクは、ここでもう一度じっくりと彼女を見てみる気になるらしい。それに、ジョー・ゴスの店の酒をしこたま飲んだあとの目でドロレスを見るんだから、たぶん彼女が実物の十倍ぐらい美人に見えるんだろうな。ここでとくに言っておきたいけど、ドロレスの十倍も美人なんてのは夢の中でなきゃあお目にかかれないぜ。
「懐かしのケンタッキー」Old Em's Kentucky Home(1939年)
>ところが馬主の「鉄兜」イッキーは、トウイッチがどんなに馬を痛めつけるかってことを気にするばかりでなく、エム号のような馬にとってはこれはもうまったく屈辱そのものだと考える。イッキー以外の人間はエム号を老いぼれののろま馬としきゃみていないが、イッキーにはエム号は世界一の名馬だ。その馬が苦痛と屈辱にさいなまれるのは見るに忍びないと考えるらしい。実際イッキーはこの老馬を世界の何よりも、最愛の妻マウジーをも含めて、誰よりも熱愛しているんだ。
