町山智浩 2009年 太田出版
副題は「超大国の悪夢と夢」。
ことし8月に、町山さんの本読み始めたころ、地元の古本ワゴンセールで見つけた本。
ちょっと前のものだから文庫もあるんぢゃないだろうかと思ったけど、わかんないからその場の勢いで買った。
単行本刊行にあたって、連載してた「週刊現代」の講談社が、時事ネタものは売れないだろうから本出せない、文庫なら出すとか言ったっていきさつが、あとがきにあって、おもしろい。
もとのコラムが書かれた時代は、だいたい2005年から2008年くらいにかけてのもの。
あいかわらずのアメリカの変な話がいっぱい。
アメリカでは、たいていの場合、外に洗濯物を干すことはコミュニティのルールとして禁じられてるとか。
50年代に、冷蔵庫、洗濯機、乾燥機が売り出された時代に、物干しが廃れて、外に洗濯物を干すと、
>つまり「乾燥機を買えないほど貧乏な人が住んでいると思われると困る」ということだ。実際、洗濯物が外に干してあると、その地域の不動産価値が下がってしまうらしい。(p.55「晴れた日に洗濯物を干す自由を我等に!」)
ということで、周辺住民に法的措置をとられるんだって。
2005年のできごとのとこでショッキングだったのは、アメリカでは市販の風邪薬に含まれるプソイドエフェドリンって成分からメタンフェタミンを抽出して、覚醒剤を家庭の台所でつくる人々がいるって話。
有害物質が発生するんで、
>新しい家に引っ越してからアレルギーが止まらないので調べてみたら、前の住民がシャブ製造人で言えの壁に有害物質が染み込んでいたという例が増えている。そこで、最近はその家がシャブ工場だったかどうかを調査したり有害物質を洗浄する専門業者もある。(p.74-75「となりのシャブ工場」)
ということがあるらしい、それが普通の場所で起きるってのは、イカレてる社会だよねえ。
あと、前に読んだ本と同様、カルチャーの分野に政治的圧力が及んでる話には興味もった。
アメリカの映画には、R指定とかPG13指定とか5段階のレイティングがあるけど、これを決めてるのはMPAAアメリカ映画業協会という、メジャー映画会社の共同出資による団体だという。
で、その審査員の身元情報は極秘で、その理由は政治的圧力や買収を防ぐためという、もっともそうなもの。
ところが、この審査に反発する映画をつくったひとたちが、私立探偵に尾行まで依頼して調査したところ、
>判明したのは、審査会の責任者は共和党員で、審査会にカソリックとメソジスト教会が席を占めているという事実だ。映画に対する政治や宗教の圧力を避けるための機構のはずのMPAAは、既に共和党とキリスト教にコントロールされていたのだ。(p.225「レズでイったら18歳未満お断り」)
ということがあばかれたと。
>また、アクション映画でヒーローがいくらテロリストを殺してもPG13にしかならないのに、ドキュメンタリー映画で米兵に殺されたイラク人の死体を映すとRやNC17になってしまう。娯楽映画としての人殺しは子どもに見せてもOKで、人殺しの恐ろしさを描くと子どもには見せられない。それって逆じゃないか?(同)
という意見はたしかにそうで、キリスト教福音派に支えられてる保守勢力ってのはほんと不思議な存在。
ほかには、インチキ回想録のベストセラーの話もおもしろい。
7歳のころから実の母に男娼をさせられてたという『サラ、いつわりの祈り』の著者の少年は実在しなくて、30代女性の書いたフィクションだったってとこから始まって。
2005年のベストセラー『ア・ミリオン・リトル・ピーシズ』も、酒とドラッグにおぼれ自動車事故を起こした著者の更生の体験、ぢゃなくて、ふつうに小説。
1995年の『“It”(それ)と呼ばれた子』も虐待の体験談にみせて、全部ウソ。
きわめつけは、1976年の『リトル・トリー』で、チェロキー・インディアンの思い出と祖父からの教えだっていうけど、実は著者はインディアンとはまったく関係ないどころか、人種差別主義者だって。
こういうトンデモないことが繰り返される理由について、町山さんのあげるのは四つ。
>まず出版社は個人の回想の信憑性を確かめようとしない。まあ、普通は信じるもんなあ。
>次に、アメリカでも日本のように創作文学が全然売れないので、昔だったら「私小説」として出版されるべき本でも無理やりノンフィクションとして売ろうとする。
>それに、たとえウソっぱちを実話と偽って本にしてもそれを裁く法律はない。
>4つ目は、不幸な人々や聖なる野蛮人のことを読んで「癒されたい」という「感動乞食」どもの存在だ。(p.219「サラ、いつわりのいつわり」)
4つ目の、鋭いですね。
大まかな章立ては以下のとおり。
chapter 1:Living in America
chapter 2:American Nightmare
chapter 3:Taking Care of Business
chapter 4:Rock in The USA
chapter 5:Culture Wars
chapter 6:Boob Tube
chapter 7:Celebrity Meltdown
chapter 8:Nippon Daisyki!
chapter 9:American Dreamers
副題は「超大国の悪夢と夢」。
ことし8月に、町山さんの本読み始めたころ、地元の古本ワゴンセールで見つけた本。
ちょっと前のものだから文庫もあるんぢゃないだろうかと思ったけど、わかんないからその場の勢いで買った。
単行本刊行にあたって、連載してた「週刊現代」の講談社が、時事ネタものは売れないだろうから本出せない、文庫なら出すとか言ったっていきさつが、あとがきにあって、おもしろい。
もとのコラムが書かれた時代は、だいたい2005年から2008年くらいにかけてのもの。
あいかわらずのアメリカの変な話がいっぱい。
アメリカでは、たいていの場合、外に洗濯物を干すことはコミュニティのルールとして禁じられてるとか。
50年代に、冷蔵庫、洗濯機、乾燥機が売り出された時代に、物干しが廃れて、外に洗濯物を干すと、
>つまり「乾燥機を買えないほど貧乏な人が住んでいると思われると困る」ということだ。実際、洗濯物が外に干してあると、その地域の不動産価値が下がってしまうらしい。(p.55「晴れた日に洗濯物を干す自由を我等に!」)
ということで、周辺住民に法的措置をとられるんだって。
2005年のできごとのとこでショッキングだったのは、アメリカでは市販の風邪薬に含まれるプソイドエフェドリンって成分からメタンフェタミンを抽出して、覚醒剤を家庭の台所でつくる人々がいるって話。
有害物質が発生するんで、
>新しい家に引っ越してからアレルギーが止まらないので調べてみたら、前の住民がシャブ製造人で言えの壁に有害物質が染み込んでいたという例が増えている。そこで、最近はその家がシャブ工場だったかどうかを調査したり有害物質を洗浄する専門業者もある。(p.74-75「となりのシャブ工場」)
ということがあるらしい、それが普通の場所で起きるってのは、イカレてる社会だよねえ。
あと、前に読んだ本と同様、カルチャーの分野に政治的圧力が及んでる話には興味もった。
アメリカの映画には、R指定とかPG13指定とか5段階のレイティングがあるけど、これを決めてるのはMPAAアメリカ映画業協会という、メジャー映画会社の共同出資による団体だという。
で、その審査員の身元情報は極秘で、その理由は政治的圧力や買収を防ぐためという、もっともそうなもの。
ところが、この審査に反発する映画をつくったひとたちが、私立探偵に尾行まで依頼して調査したところ、
>判明したのは、審査会の責任者は共和党員で、審査会にカソリックとメソジスト教会が席を占めているという事実だ。映画に対する政治や宗教の圧力を避けるための機構のはずのMPAAは、既に共和党とキリスト教にコントロールされていたのだ。(p.225「レズでイったら18歳未満お断り」)
ということがあばかれたと。
>また、アクション映画でヒーローがいくらテロリストを殺してもPG13にしかならないのに、ドキュメンタリー映画で米兵に殺されたイラク人の死体を映すとRやNC17になってしまう。娯楽映画としての人殺しは子どもに見せてもOKで、人殺しの恐ろしさを描くと子どもには見せられない。それって逆じゃないか?(同)
という意見はたしかにそうで、キリスト教福音派に支えられてる保守勢力ってのはほんと不思議な存在。
ほかには、インチキ回想録のベストセラーの話もおもしろい。
7歳のころから実の母に男娼をさせられてたという『サラ、いつわりの祈り』の著者の少年は実在しなくて、30代女性の書いたフィクションだったってとこから始まって。
2005年のベストセラー『ア・ミリオン・リトル・ピーシズ』も、酒とドラッグにおぼれ自動車事故を起こした著者の更生の体験、ぢゃなくて、ふつうに小説。
1995年の『“It”(それ)と呼ばれた子』も虐待の体験談にみせて、全部ウソ。
きわめつけは、1976年の『リトル・トリー』で、チェロキー・インディアンの思い出と祖父からの教えだっていうけど、実は著者はインディアンとはまったく関係ないどころか、人種差別主義者だって。
こういうトンデモないことが繰り返される理由について、町山さんのあげるのは四つ。
>まず出版社は個人の回想の信憑性を確かめようとしない。まあ、普通は信じるもんなあ。
>次に、アメリカでも日本のように創作文学が全然売れないので、昔だったら「私小説」として出版されるべき本でも無理やりノンフィクションとして売ろうとする。
>それに、たとえウソっぱちを実話と偽って本にしてもそれを裁く法律はない。
>4つ目は、不幸な人々や聖なる野蛮人のことを読んで「癒されたい」という「感動乞食」どもの存在だ。(p.219「サラ、いつわりのいつわり」)
4つ目の、鋭いですね。
大まかな章立ては以下のとおり。
chapter 1:Living in America
chapter 2:American Nightmare
chapter 3:Taking Care of Business
chapter 4:Rock in The USA
chapter 5:Culture Wars
chapter 6:Boob Tube
chapter 7:Celebrity Meltdown
chapter 8:Nippon Daisyki!
chapter 9:American Dreamers
