エマニュエル・トッド/大野舞訳 2020年 筑摩書房
これはつい近ごろ、書店へ行ったときに積んであって、なんとなく気になって買ってみたもの。
著者名をぼんやりとおぼえていたのは、なにかテレビ番組のインタビューでおもしろいこと言っていたのを見たからだろうと思ったわけで。
(それって、グローバリゼーションの弊害だか限界だかとか、保護主義のパラドックスとか、そんな感じのこと。)
紹介によれば、著者はフランスの歴史人口学者で、ソ連崩壊やイギリスのEU離脱などを予測させてきたひと。
そのツールは人口に関する統計とかで、ソ連崩壊の決め手は乳児死亡率の高さだったという、いいねえ、統計による冷静な事実って。
でも、読んでくうちに失敗したと思った、そういうったこれまでの研究に関する著作を読んでないのに、いきなり本書を読んでも何の話をされてるか、ちょっとピンとこないから。
どうやら得意分野のひとつは家族構成に関することらしくて、現在の新型コロナウイルスへの対応にしても、ドイツ、日本、中国、韓国といった国は比較的うまくやっているんだけど、これらは直系家族の国だとか、そういう視点があるらしい。
ただ、これまでの業績に関してもけっこう批判があるらしく、詳しい事情は知らないが、
>私がめちゃくちゃなことばかり言うから学術界からは排除されてしまいましたが(略)(p.124)
なんて言ってる、でも活躍しているようだから、これは皮肉なんだろうか。
でも、そういう周囲の批判に対しても、
>(略)大学とそこに属する人々は、私の学説が人間の自由への侮辱だということを理由に、事実を見ようとはしませんでした。多くの人が批判を浴びせましたが、肝心なデータの正確性に関してのものは一つもありませんでした。(p.191)
と堂々と言ってのけられるんで、やっぱ統計データによる事実ってのは偉いんだと、私なんかは再認識しちゃう。
どうも伝統的なフランス文化みたいなものとソリがあわないらしく、「フランス哲学は現実から驚くほど切り離されてしまっている」とか、「フランス哲学の抽象的でまったく何が言いたいのかわからない文章」とかって言ってるとこもあり、イギリスの経験主義のほうがはるかに現実を直視してるぢゃないかってスタンスらしい。
タイトルにもなってる、肝心の「思考」ということについては、
>私にとって思考することの本質とは、とある現象と現象の間にある偶然の一致や関係性を見いだすということ――つまり「発見」をするということです。私には、方法論や抽象的な問いよりも、このことのほうが重要なのです。私にとって「発見」とは、」変数間の一致を見いだすことを意味します。(p.89)
というぐあいに、はっきり表明している。
ってことは、やっぱ量的データを処理して、そこにある事実を明らかにする、それが現実、って感じなんだろう、私は好きですね、そういうの。
ただ、経済学とかだとわりとふつうなんだろうが、歴史学でそういう考えとるのって、いままであんまり聞いたことなかった。
そのへん、歴史を学ぶことってことについては、
>(略)未来を見たいと思うのであれば、一歩下がって歴史的な観点から考察するのは必要不可欠なことです。(略)長期的な傾向についての知識を持っているということは、今日の突然で極端な変化をしっかりととらえることにつながるのです。(p.149)
みたいに言ってて、それに尽きるんぢゃないかと、学ばなければ、過去はあっても歴史がないってことになっちゃうしね。
序章 思考の出発点
1入力 脳をデータバンク化せよ
2対象 社会とは人間である
3創造 着想は事実から生まれる
4視点 ルーティンの外に出る
5分析 現実をどう切り取るか
6出力 書くことと話すこと
7倫理 批判にどう対峙するか
8未来 予測とは芸術的な行為である