橋本治 二〇〇四年 集英社新書
このあいだ『「わからない」という方法』を読み返したときに気づいたんだが、私はこっちのほうを先に読んだんではないかと。
これ持ってるのが2004年5月3刷で、あっちは2001年出版だけど私の持ってるの2005年15刷だから、こっち読んでおもしろいと思ったからさかのぼって別の読んでみようと思ったんではないかと。
まあ、いいや、いずれにせよ遠い昔のことだから。
とはいえ、よく思い起こせば、そのころって私も初めての上司って立場になったころだったような、全然たいした仕事はしてなかったけど。
本書読み返したら、「あー、部下の作成したペーパーに、何か筆を入れて、より良くしてあげよう、なんて考えるのは邪魔なだけなんだから極力よそう」なんて、反省したこと思い出したりして。
>この本は別に、「あなたの創造性を高める本」じゃありません。「停滞した日本のサラリーマン社会はなんとかならないのかよ?」を考察する本です。(p.17)
とか、
>しかし、そんな重大な欠陥がなぜ見過ごされているのかというと、これはまた別です。事の最大の理由は、「上司は思いつきでものを言う」が公然と放置されている、サラリーマン社会の構造そのものにあるのです。(p.27)
とかって、最初のほうで言ってるとおり、日本社会のそこんとこどうにかならないのか考えるのがテーマ。
>「会議」とか「議論」ということを考えると、どうしても「前提から始まって結論に至る」というようなもんだと思います。でも、日本の会議は違うんです。「仮の前提から始まって、それを正式の前提として承認することによって終わる」が、日本の会議なんです。
>結論は、既に別のどこかで出されている。あるいは、会議で承認された「前提」を受けて、別のところが改めて、結論を出すのです。
>日本の会議というのは、議論をするところではなくて、承認をするところなんです。(p.59)
だなんて具合に、著者は会社員でもなかったのによく知ってるなーと思う。
もっとも、それについては最後に、会社員である編集者とつきあいがあればそれでわかると種明かししてますが。
ちなみに、上司が思いつきでものを言っちゃう理由はいろいろあるんだけど、ひとつの例として、現状を打破する発展的な提案が蹴られるのは、
>あなたの言うことは、「今まではともかく、これからは――」なんです。あなたは、「これから」という先のことしか考えていません。「今まで」のことなんか、どうでもいいのです。ところが、その話を聞かされる上司達は、「今まで」を生きていて、「これから」がまだよく理解出来ません。(略)
>「今まであんた達が無能だったから、会社はここまで傾いた。だからオレが、あんた達にどうすればいいか教えてやる」――あなたの提案は、上司達の耳にはそう聞こえるのです。(p.39)
みたいな状況から会議は膠着状態になって、なんか突拍子もないこと言い出すことが良いアイデア出してるんぢゃないか的な場をつくっちゃう、みたいなことがあげられている、なんか冷静に言われちゃうと悲しくなるよね。
とかく、この本は日本社会を指摘する名言に満ちてるんだけど、
>会社組織は、たやすく官僚化する、しかし、官僚組織はたやすく会社化しない。官僚組織は、するんだったら、より官僚化する。会社化しようとしてたやすく失敗する(略)(p.135)
とか、
>「しかし」とか「でも」というのは逆説の接続詞ですが、しかし日本語には、これを、「相手の言うことを聞き流して自説を展開するための軽い間投詞の一種」とするような裏マニュアルもあります。(p.35)
とかって、いいなあと思う。
今回ほとんど内容忘れてたぐらい久しぶりに読み返して、気に入ったのが、
>「読み手に分かるような文章を書く」というのは、民主主義下の原則ですが、これを忘れているのだとしたら、「部下であるあなたがバカである可能性」は、十分にあります。(p.162-163)
ってとこ。
なんか近年ね、いわゆるお役所の書いた文言を報道でみる機会が増えたような気がするけど、ふつうに読んでもなかなかわかんないでしょ。
しまいには受け取られ方が自分たちの意図とちがうと、「誤解があるようだが」とか読み手の責任にしようとするし。
あれはやっぱ、自分たちの無謬性の主張もあるが、自分たちだけで通じる論理と言葉づかいで書いてるからで、そもそも国民を読み手と思ってないし、やっぱ内部記録用なんだよね、ひとに説明する種類のものぢゃない。
閑話休題。
初めて読んだときも、現在も、本書を読んでいちばん感銘うけたとこは、
>あなたの目の前には、「思いつきでものを言うだけの上司」がいます。これには、どう対処したらいいでしょう?
>簡単です。あきれればいいのです。「ええーっ?!」と言えばいいのです。途中でイントネーションをぐちゃぐちゃにして、語尾をすっとんきょうに上げて下さい。(p.146-147)
っていう具体的な現実的な簡単な方法を示すとこ。
>そういう「人間的な声」がないから、「下から上へ」がちゃんとある組織であるにもかかわらず、くだらなく官僚的になるのです。(p.149)
ってこと、すごく大事だと思います。
そういやあ、組織内だけぢゃなく、外部からもむちゃくちゃな思いつき言われるのに、そのたびマジメに受け止めて回答してあげようとする組織知ってたけど、「相手にしないで、『ええーっ!?』って言って、笑っちゃえばいーんぢゃないですか」とか言ってたな、俺。
コンテンツは以下のとおり。
第一章 上司は思いつきでものを言う
一 「思いつきでものを言う」を考えるために
二 いよいよ「上司は思いつきでものを言う」
三 「上司」とはなんだ
四 どうして上司は思いつきでものが言えるのか
第二章 会社というもの
一 誰が上司に思いつきでものを言わせるのか
二 上司は故郷に帰れない
三 景気のいい時の会社には、なにも問題がない
第三章 「下から上へ」がない組織
一 景気が悪くなった時、会社の抱える問題は表面化する
二 「下から上へ」がない組織
三 もう少し人間的な声を出すことを考えてもいいんじゃないだろうか
第四章 「上司でなにが悪い」とお思いのあなたへ
一 「上司はえらくて部下はえらくない」というイデオロギー
二 儒教――忘れられた常識
三 「民主主義」という能力主義
四 もう少し「日本的オリジナル」を考えてもいいんじゃないだろうか