E・S・ガードナー/宇野利泰訳 1963年 ハヤカワ・ポケットミステリ版
また古いペリイ・メイスンシリーズのつづきを読んだ、短時間ですらすらいけるのがいい。
原題「THE CASE OF THE MISCHIEVOUS DOLL」は1963年の作品。
メイスンの事務所に来たのは、年は23,4、髪はとび色、眼はうす茶、かなり個性のつよそうな女性。
ドリー・アンブラーと名乗り、用件は自分がほかの誰でもなくドリー・アンブラーだと確認してくれという。
そのためには盲腸の手術痕をお見せするという、指紋とったほうが確実だとメイスンがいうと、それはイヤだという。
何者なのか興味もったメイスンは、事務所から出た彼女を探偵に尾行させる。
尾行者からの報告によると、そのあと空港へ直行して、人の多い新聞売り場の前でピストルを三発発射、婦人休憩室へ逃げ込んで、しばらく後に休憩室から出てきたところを、駆けつけた警察官に身柄を確保された。
ところが、捕まったその女はミネルヴァ・ミンデンと名乗って、ただのいたずらでしたと犯行を認め、保釈金を払って釈放された。
このミネルヴァ・ミンデンというのは、「じゃじゃ馬女相続人」として有名で、相続人なしで亡くなった富豪の財産を、調査で姻戚関係にあると探し当てられたため相続したんだけど、飲酒運転したりスピード違反したりで素行の悪さが多いひと。
すると、ドリーがまたメイスンを訪ねてきて、私は新聞広告の募集に応じて奇妙な仕事を始めていた、指定された服装をまとい、街の通りを歩いてみせるだけで高額収入になる。
気になって、調べてみたら裏にミネルヴァ・ミンデンがいることがわかった、彼女と自分は容姿そっくりで同じ服装だ、きっと彼女の替え玉かなんかに自分はされようとしている、何か罪を着せられるのではないか。
どんな企みかを暴きたくて、空港にミネルヴァが来ているタイミングで、空砲を撃って騒ぎを起こしたが、ミネルヴァはあっさり自分がやったことだと認めて、替え玉がいるとかの騒ぎにしないで乗り切ってしまった。
真相を調査してほしいという彼女の依頼を受けたメイスンは、探偵事務所をつかって調べ始めると、ドリーを採用するちょっと前にミネルヴァがひき逃げ事故を起こしたのではないかという情報をつかむ。
一方で、ドリーはミネルヴァと母のちがう姉妹なんぢゃないかという疑いも浮上、替え玉探してて、あまりにそっくりなのを見つけたら、実は新たな相続人を見つけちゃったとしたら、こんどは財産分与で争うことになるのかも。
そうしてると、ドリーがメイスンに電話してきて、すぐお会いしたいのでウチまで来てくれ、私は見張られててこちらからは行けない、とか頼んでくる。
だいたいシリーズのパターンとして、こういうのに応じてメイスンが出かけてくと死体を見っけちゃうんだが、今回は撃たれたばかりでまだ脈のある男を見つける、でも救急搬送されてるあいだに死んぢゃう、殺人事件発生。
部屋の主であるドリーもいないので、犯人に誘拐されたのではとメイスンは案じる。
警察が到着して一緒に周辺調査すると、ドリーのガレージには車があって、警察によれば盗難車であり、ひき逃げ事件に関係する車両であるという、ドリーは単なる被害者ぢゃなくて、自身なにか犯罪に関わっているというのが警察の見立て。
その後、メイスンがミネルヴァと面会すると、メイスンも間違うくらいドリーと似ていたが、ミネルヴァのいうには、ドリーは自分と親戚関係にあると思い込んでいて、財産の分け前を要求し脅迫まがいのことをしてた、新聞広告の替え玉募集とかいうのはドリーが探偵事務所をやとって作った自作自演だろう、メイスン弁護士もドリーにだまされてるんですよと。
どっちが悪いやつなのかわからない、さすがのメイスンも、
>おれはこれまで、どんな事件がおこっても、いつも自分の意のままにあやつってきた。こんどのように、こっちが事件にあやつられていると思うと、たまらなく口惜しいんだ(p.116)
みたいにアセる、めずらしい、でも事件あやつっちゃだめでしょ、いつも違法すれすれの仕掛けをする弁護士さんたら。
そうこうしてるうちに、ミネルヴァが殺人事件で起訴される、メイスンに弁護を依頼するが、メイスンとしてはドリーとミネルヴァでは利害が対立する関係かもしれないので迷う、しかし結局は、ぢゃあ殺人の件に限りってことで、弁護を引き受ける。
めずらしいね、最初の依頼人が被告ぢゃない裁判にのぞむ展開っていうのは。
かくして、ミネルヴァが「やってない」というのだけを聞いたメイスンは、それで十分だとして、さらに彼女が「わたくし、あなたに告白したいことがあるのです」と、別件を持ち出そうとするのを、それをきくわけにはいかない、
>つまり、被告の権利として、その弁護人にむかって、どんなことでも話すのをゆるされていますが、しかし、あなたが起訴された罪とは無関係の、別個の罪をおかしたことを、ぼくに話すとなると、事情はまたちがったものになってくるのです。
>(略)ほかにも重大な犯罪をおかしていることを知って、その犯罪のために逮捕されないように助言したとなると、ぼく自身、従犯となってしまうのです(p.134)
と自身の立場を説明する、まあ、ここで聞いちゃうと謎解きのお話になんないんだけど。
かくして、いつものとおり絶対不利な状況で裁判は始まるんだが、例によって翌日まで休廷ってなってる間にさらなる調査をして、再開された法廷で満場をあっと言わせる逆転劇を起こす。
(※2022年1月15日追記)
もしかしてタイトルの「人形・doll」って、ヒロインの名前がドリーってのと引っ掛けてる? なんてことが突然あとから気になった。