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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

Thinking Baseball

2023-10-19 19:08:33 | 読んだ本

森林貴彦 2020年 東洋館出版社
副題は「――慶應義塾高校が目指す“野球を通じて引き出す価値”」。
ということで今年2023年夏の甲子園で優勝した慶應義塾高校の監督の著書である、もっとも表紙の著者肩書は「野球部監督」ぢゃなくて、「慶應義塾幼稚舎教諭」ってなってんのがおもしろい、小学校の先生なんだよね、驚いたことに、3年生(だっけ?)の担任なのに甲子園まで行って監督やってた。
なんでも高校生の野球部員たちにも自身のこと「監督」ぢゃなくて「森林さん」と呼ばせてるらしいから、職業監督ぢゃないしって意識が教諭って肩書を選ばせてるのかもしれないが。
県大会勝って甲子園出場を決めたあとかな、こういう本があると知って8月には探してたんだけど、新刊書店でも古本屋でも見つけらんなかった、そしたら9月中旬になったら買えた、本年9月13日の第8刷となってるから、甲子園優勝したから急いで増刷したんだろう、おかげで表紙カバーも書名より大きく「甲子園優勝」の文字である、見た瞬間は違う新刊かと思っちゃったよ、やれやれ。
慶應の野球部っていえば、私が高校生のときですら、同級生の野球部員(丸刈り)が「あそこが甲子園出たら、髪型自由とかで、けっこう話題になると思うから、一度行ってみてほしいんだよね」と言ってたくらいなんだが、近年はポツポツと甲子園出場するようになってたけど、とうとう優勝しちゃったんで、今年の夏はかなり大騒ぎだったようにみえた。
私が今年の慶應の野球の試合をちゃんと観たのは夏の甲子園の初戦で、近年は高校野球にあまり興味ないんで、春も県大会もみてなかったんだけど、まあ、ファーストストライクから思い切り振っていくバッティングはいいなあと思った。
それよりなにより感心したのは、内野も外野もフライをワンハンドキャッチしてるとこで、「ボールは両手で捕れ」なんてのはグローブがお粗末だった時代の名残だ、って思ってる私はいたく好印象をもつことになった。
バッティングについては、いくつかの報道をみたら、データ分析をして狙い球を決めてるみたいな解説があって、そういうものかと思ってたら、本書には、
>(略)投手の配球を中心にデータを集めることがありますが、「最後はデータよりも感性を優先しよう」と指導しています。(p.17)
って書かれてるとこがあって、ちょっと意外というか、やっぱ簡単なことぢゃないのねと感じた。
さて、サブタイトルにある「野球を通じて引き出す価値」とは何なんでしょうなんだけど、序章において高校野球がもつ価値として、「困難を乗り越えた先の成長を経験する価値」「自分で考える楽しさを知る価値」「スポーツマンシップを身に付ける価値」といったことがあげられてます。
なかでも、やっぱタイトルになってるくらいだから「考える」ってことは重要、
>考える。意見をもつ。理解する。スポーツはこうした作業を頭の中で繰り返していくことが、本来あるべき姿です。スポーツは、体を動かすとともに大変高度な知的作業でもあるのです。(p.75)
って大前提はあるんだけど、なんで考えて野球するかっていうと、
>自ら考えて工夫することの利点は、考えているうちに野球が自然と楽しくなっていくことにあるのではないでしょうか。(p.81)
ってとこに尽きるんぢゃないかと、そのほうが楽しいでしょ、と。
ぢゃあ、考えるって何よ、ってことなんだが、
>例えばベンチからバントの指示が出た際に、「いまの守備隊形であれば、バスターしたほうが面白いんじゃないか」「走者に対して無警戒だから、盗塁を狙ってもいいんじゃないか」と、選手が考えることが大事ですし、うちのチームとしてはそこを目指したいと思っています。(p.10)
って試合中のことはもちろんなんだけど、私が読んでて感心したのは練習のなかでも、
>例えば30分のノックの練習を行う際、受け身の姿勢で時間を消化するだけでは、ただの体力強化メニューになってしまいます。しかし、選手がノッカーに対して「僕はバックハンドのキャッチが課題なので、それを多く打ってください」と事前に頼めば、大枠は全体練習であったとしても、立派な個人練習になります。(p.112)
とか、
>(略)何のための練習なのかということを、選手一人ひとりがはっきりと言えるようになっていかなくてはいけません。「キャッチボールをやっています」ではなく、「キャッチボールでは芯で捕ることを意識していて、素早い握り替えを身に付けようと努力しています」などと言えるのが理想。(p.125)
とかって、自主性っつーか、意識の高さが必要だっていう点だった、そうだよね、ノックなんてまずほとんど受け身だと思うよ、ふつうは。
そういうチームを目指してるから、監督からの選手への指導も、通常よくあるようなあーしろこーしろ俺の言うとおりやれぢゃなくて、
>だからこそ私は、常日頃から「なんとなくプレーするのが一番ダメだ」ということを選手に伝えていますし、意図を持ってプレーしていない選手には厳しく言うようにしています。(p.117)
ってスタンスになるし、
>“選手一人ひとりを大切にする”ことの要は、一人ひとりに自分の頭で考えさせることだと、私は解釈しています。(略)
>つまりは、一人ひとりに違いがあることを認めたうえで、大切にするということ。(略)その場面ごとに考える習慣を付けさせることが、一人ひとりを大切にすることなのではないか、というのが私の考えです。(p.63)
という基本方針によって、自分で考えることができるほうに道を開いてやることになる。
もちろん未熟な高校生だから、考える訓練もできてないかもしれないし、すぐにいい答えを自分で考えつくとも限らないんだけど、そこは成長のためだから、じっと待つ。
>ただ単純に「しっかりやれ」と叱咤し、選手も何も考えず「はい」と返事をするだけでは、また同じミスを繰り返すでしょう。ミスが出るのは仕方がないので、それを次にどう生かすかということを練習中のみならず、試合中でもいつも選手に伝えています。それが、社会に出てから必要な思考力になってくるからです。(p.163)
とか、
>高校生である選手からすれば、自分で考え、意見を出し、話し合えるというのが一番の成長です。私自身もそれを求めていますし、社会に出ても、それができる人間にならないといけません。(p.168-169)
というように、目の前の高校野球の試合に勝つだけぢゃなくて、社会に出てちゃんとした大人になるためのコーチングなんだから、信じて、待つ、そこは揺るがない。
ちなみに、ティーチングとコーチングの違いがあげられている箇所があって、
>コーチングの要は、選手への質問です。
>例えば「どうすれば、バットがボールに当たるようになると思う?」と聞いて、その選手なりの答えを引き出してあげます。お互いにディスカッションしながら答えにたどり着くという意味では、双方向のコミュニケーションが重要であり、それこそがコーチングです。(略)本当の答えは本人の中にあり、それに気付かせてあげるのがコーチングの基本的な考え方ではないかと私は解釈しています。
>対してティーチングは、「答えはこうだから、こうしなさい」と、こちらが持っている答えを与える方法です。(p.131)
っていうんだけど、コーチングがうまくいったほうが成長の幅は大きくなる、って勉強になりました。
そうそう、あと、「スポーツマンシップ」っていう、わかってるようでわかってないかもしれない言葉について、
>スポーツマンシップとは尊重、勇気、覚悟の3つの要素で構成されています。“尊重”とは仲間、対戦相手、審判、ルールを尊重すること。“勇気”とは失敗を恐れずに挑戦すること。“覚悟”とは最後まで全力を尽くしてどんな結果も受け入れること。これらを複合してスポーツマンシップと呼びます。(p.95)
って説明してるところもたいへん参考になりました。
ところで、そんな森林さんの原点になったのは自身が高校生のときの体験だそうで、当時の監督に「セカンドへのけん制のサインを自分たちで考えなさい」と言われて、自分たちで考えたのが楽しくてやりがいがあったという。
そのときのことを後年訊いたら「(サインを)自分たちで決めたほうが楽しいだろう」(p.42)と言われたってこと、その監督も自身を“監督”と呼ばせず “さん付け” で呼ばせることで距離感が近かったことが、現在になっても自分が同じようにやっているもとになってるらしい。
章立ては以下のとおり。
序章 高校野球の価値とは何か
第1章 「高校野球らしさ」の正体
 “高校野球は坊主頭”という固定観念
 ケガをいとわない根性論は美しいか
 体罰に逃げる前時代的な鬼監督像
 高校球児は青春の体現者か
 少年たちは野球を楽しんでいるか
 伝統に縛られないこれからの高校野球のために
第2章 高校野球の役割を問い直す
 高校野球のためではなく、社会に出てからのため
 「自ら考える力」を育む
 「スポーツマンシップ」を育む
 選手は自ら育つという信念
第3章 高校野球を楽しむための条件
 野球を楽しむチームの条件
 コーチング主体の押し付けない指導者像
 野球を楽しむチームの試合への向かい方
 主体性のある練習を組み立てるには
終章 高校野球の再定義


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