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ノウハウを承継する

2012-11-16 17:42:39 | 12期生のブログリレー

堀江でございます。

今日はまず身の上話、数年前に起きた父の他界のことから。

父は、肥料の配合・販売業を50年間、そのほとんどの期間有機肥料に集中し事業を営んでおりました。今でこそ有機農業は一般的ですが、始めた当時はまだ一般に価値を認知されておらず、市場開拓から始める必要がありました。父はやる気がある若手農家を地域ごとに集め、有機農法の研究会をいくつも立ち上げ、農業を専門とする大学教授に参加してもらい、肥料と農法を共同開発しました。

有機肥料は原材料の種類が多く、狙った性能を出すには網羅的な知識と長年の散布経験が必要になります。作物ごと、畑ごとに与えるべき栄養素が異なるからで、漢方薬の配合に似ています。いい畑を育てるには、何年もの間、毎年違った肥料を与える必要があるのです。個別農家の目的にあった配合メニューを多くそろえてから、父の事業はそれなりに安定するようになりました。

さて、あるとき癌がみつかり即入院し、2か月後に他界してしまいました。76才ですから年相応です。亡くなる数日前まで携帯電話を片手に働けたのは不幸中の幸いです。亡くなって残ったのは、段ボール数箱分の膨大な配合メモ。特殊な原材料の調達先リスト。すべて手書き、ほとんど読めない、何がどこにつながるのか、内容を誰にも理解できない。

結局父の会社は、長男である私が清算をしました。黒字ではあるものの、事業をどなたかに譲り受けてもらうには、規模が小さすぎました。

会社は別に消滅してもいい。でも、父が一生かけて開発した様々な配合情報を、誰にも引き継げなかったことに、強く責任を感じています。もっと早く私が対応しておけばよかった。1か月か2か月話を聞いておけば、何がどこにどう書いてあって、どの情報がどんな人に有用な情報なのか、把握できたはずだ。父の懇意先からも、「あんたが内容を引き継ぐべきだ」とおしかりを受けました。

その後大学校を経て中小企業診断士となり、まわりを見渡すと、似たようなケースを多く知ることとなりました。一代で築き上げ、大成功しているせんべい屋。何十年とつづいている特定用途の電子回路設計。いずれも、何等かのノウハウをもち、持続してきた個人商店です。そのノウハウのほとんどが、たぶん誰にも引き継がれることなく消えていく。ITが進化した今、ロングテールの考え方からすれば、どんなニッチなノウハウであっても、記録し公開しておけば、誰かが使ってくれるはず。

しかしながら、ほとんどの経営者は自分の知識を系統だって伝える方法を知らない。また、経営者は自分の事業と人生が同化しています。生前に自分の人生を他人に譲り渡すことは、まずないのです。

暗黙知、形式知という有名な考え方があります。日本のノウハウはあたかも「暗黙知」であり、伝承がむずかしいように理解されていますが、父や多くケースは、実は「形式知」です。組み合わせや経験が、父の頭の中に入っていて、それを見える化する手法を知らなかったのです。

さて、とここから本題。このままでは経営者の他界とともに、多くのノウハウが失われていきます。では、誰が何をすべきなのか、どうすれば社会や国益を守れるのか。 

なのですが、今日は此処までにさせて頂きます。急きょ昨日今日で引っ越しを行い、今はまだ開梱中の段ボールに埋もれています。物件を見つけてから引っ越しまで2週間という強行軍!今晩の着替えがまだ見つかりません。後日補足を付け足しますので、今日のところは此処まででご容赦くださいませ。

<追記 平成241130日>

どうすれば、先人が積み上げた貴重なノウハウを、誰かの役に立つように残せたのでしょうか。

父の場合は、私がすべきであったことは以下と考えています。
(1) 持っているノウハウ・知的経営資産を棚卸しし、「見える化」する
(2) 「見える化」した資産を、第三者に伝わるよう「見せる化」する

その手法は以下の通りです。

(1) 計画的にヒアリングを行う。網羅的なヒアリングを行い資産の全体像を把握するとともに、仮説に基づく深堀りヒアリングを行い、重要で価値がある知的経営資源を特定する。

(2) 得た情報を基に、ビジネスモデルを構造化し、重要と判断された資産を「見える化」する。付箋と模造紙を活用する。

(3) 抉り出した知的経営資産を、第三者がわかるフォーマットにまとめる。

(4) 保有する事業資産の一覧を作成する。

 

何のことはない、経産省が支援する「知的経営経営」の経営レポートと、M&Aに際し作成するインフォメーション・メモランダム(財産目論見書)の、両方をつくればよかったのです。前者は中小企業診断士の役割、後者はM&A仲介機関の役割です。

 

昨年4か月をかけ、あるテクノロジー企業の知的資産経営マニュアルを作成しました。それを基本に拡張すればよかったのだと考えています。

 

全体の流れは下図のとおり。

 

このうち、左半分の会社法と税法の面については、事業承継するノウハウが確立しています。専門家からサービスをうけることができ、本屋に行くと専門のコーナーがあって百花繚乱山積みです。

 

一方で、経営ノウハウに関する承継は、手法整備が進んでいません。以前、高齢化が進む製造業者に対する提案で、ノウハウ承継方法を調べましたが、技能承継においてOJTOB活用などの例がある以外、完成された手法はほとんどありませんでした。

 

では、これらの記録を作成すると、経営者にとってなにかいいことがあるのか。

 

あります。最高のこと、つまり、安心して生涯現役でいられるのです。何等かの事情で急に引退することになっても、ある程度のことは、作成した記録をもとに誰かに引き継がれるのです。とりあえずは家族や近親者に。だから、やりたいだけ現役をつづけることができるのです。

 

この企画を実現させるには2~3人のチームを組む必要があります。単独作業では、ヒアリングの抜け漏れをふせぎきれないからです。協働してくれる診断士か、診断士グループが必要です。さあ、興味ある人を探さなくっちゃ。

コメント (5)
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