「先日、京都でタクシーに乗っていて、運転手氏とほとんど口論になった。いわゆるタクシー会話で景気のことを話しているうちに先方が『日本中で今いちばん元気なのは福島ですよ』といった。『仕事がないのに金が上から降ってくる。パチンコ屋と居酒屋が満員御礼』というのを聞いて、むきになって反論するうちになんとも大人げないことを言っている自分に気づいた。」
これは池澤夏樹さんが朝日新聞(11月5日)のコラムで書いていることです。
同じような会話を10年近く前に新聞で読んだことがあります。
神戸のタクシーに乗り込んだ関東の客の発言。
「神戸はいつもまで震災を引きずっているんだ。」
洋の東西ではない、日本の東西でも、「遠い人々」は忘れやすい。
東日本大震災についても、「遠い人々」の関心は薄れてきている。
昨日のAMDA円卓会議でたびたび指摘されたことも「忘れない」だった。
池澤さんは話を続ける。
「そうではないのだ。あの日以来これまで『東日本』で進行していることは未来の何かにつながる種なのだ。目を背けては被災者に申し訳ないなどという理由ではなく、本当にあれは日本が変わる契機なのだ。だから遠い人も真摯に見ていほしい」
まことに作家としての直観力の持ち主と思います。
私たちは、「本当にあれは日本が変わる契機」をかたちにすべく、頭と手足を使わなくてはならない。
※疾走する人見絹枝像