ハマのドンこと、藤木幸夫さんの半生が映画の中で語られる。
藤木さんの家業は、かつての藤木組、今の藤木企業だ。年商75億円。
会長は長男の藤木幸太さん。
大正時代に創業し、今に至る。
港の荷役や倉庫業を生業としてきた。今は「港湾人」というそうだ。
幸夫さんがまだ国民学校に通っていた頃、ハマはたびたび米軍の空襲攻撃を受けており
毎日のように多くの方が亡くなり、ご遺体を葬ったことをあったと話される。
そして、戦争が終わって平和になったけれどなお貧乏で水上生活をしていた人々も多く、まさにその日暮らし。
人びとの楽しみは、サイコロを転がすささやかな賭け事ぐらいだった。
やがてそこにヤクザが介入してくるわけだが、ハマはそれを許さなかった。
(先代の頃には山口組の会長も湾岸業務を教わりに来たという)
幸夫さんがいう「ハマに博打はいらない」という言葉には、深い意味があった。
2010年代の後半、国策としてIRを推進するということになり、横浜も候補に名乗りを上げた。
もちろん、表向きの推進者は横浜市長であるが、実質は自民党政権(安部菅)主導であり、
横浜に食指を延ばしたのは、トランプの盟友 カジノ大手のアデルソンが経営するラスベガス・サンズなど。
1兆円の投資をすると息まいた。
市の収入も数百億円と見積もられた。
ところが横浜の候補地はハマの港湾事業エリア。ハマのドンのご当地だ。
カジノの弊害も専門家から聞いた。
在米の日本人カジノ設計者から「カジノが客から金を巻き上げるシステム」も聞いた。
ハマのドンは決意した。
一方、市民の草の根運動も進んでいた。
住民投票を求めて署名を集めた(住民数の50分の一が必要)。
規定数の3倍にあたる19万人が連署した。
しかし市議会では自民公明の反対により否決されてしまった。
もちろん、そんなことでひるむ市民ではなかった。
2021年8月の横浜市長選が天王山となった。
自民党政権は林文子現市長を見限り、菅氏と親しい小此木八郎氏(当時公安委員長、自民党神奈川県連会長)を擁立。
JR反対の立場の候補者は山中竹春氏と決まった。
注目されるのは、小此木八郎氏がIR反対を表明したことだ。
しかし、これは市民には信用されなかった。
市民1000人以上が山中氏のポスティング(チラシ配布)に参加した。
この選挙の結果は自民党の分裂と市民運動の高揚がもたらしたものと考えられている。
ハマのドンこと、藤木幸夫氏のことばが印象的だった。
「主権は官邸にあらず、主権在民」
政権が自公であれ立憲等であれ、主権は在民でなければならない。
菅官邸のおごりがこの結果をもたらした。
「やりすぎたらあかんよ」、ハマのドンのことばである。
横浜市長選の後、山中市長はIRを誘致しないと表明、ハマは守られた。
翌9月、菅氏は総裁選出馬を断念した。
この横浜市長選の大敗がその主因となったことは明らかだった。
後から結果を論ずることは難しくないが、数日前までの報道は小此木氏優位だったが直前に形勢に変化が現れた。
投票者の多くは勝ち馬に乗りたがる。
一種の雪崩現象が起きたのだ。
開票開始の8時に山中氏に当確が出た。
この大差を予想できた人がいるだろうか。
選挙はやってみなければわからないのだ。
追記:藤木幸夫氏はなぜIR反対を打ち出した小此木氏を支持しなかったのか。
自民党員であるという立場、そして小此木氏の反対表明を聞いてもなお山中氏支持を変えなかったのか。
この映画の中で語られることはなかった。
松原監督も知り得ないハマのドンの胸の内だった。
お読みいただきありがとうございました。
ウクライナに平和を!