情報もない中、なにか気になるタイトルだったので観てみることにしました。
チラシには「少女の壮絶な人生を綴った新聞記事」を基に描く、衝撃の人間ドラマとあります。
こういうのちょっと苦手です。間違いなく明るい映画ではなさそう。
2時間暗闇の中で過ごすのきつそうと思いました。
でもです。重い腰を上げて岡山市のシネマクレールに行きました。
多くはない観客でしたが確かな映画情報に接している人々の様に見受けました。
観た感想はまさしく「すげーえ映画」でした。
こんな厳しい映画を制作・配給している木下グループはどんな会社かと思ってしまいます。
一般的な意味ではヒットしない映画です。
主演の杏は河合優美さんが演じます。見事な演技です。
ストーリーとしてはほぼ時系列ですから混乱することはありません。
ただ導入部の夜明け街を歩く杏の姿と顔が何かこの物語の終末を暗示しているようでした。最後にも同じシーンが出てきます。
その感覚が、ずーと全編を通じて通奏低音のように続きます。
以下は映画のホームページからの転載です。
21歳の主人公・杏は、幼い頃から母親に暴力を振るわれ、十代半ばから売春を強いられて、過酷な人生を送ってきた。ある日、覚醒剤使用容疑で取り調べを受けた彼女は、多々羅という変わった刑事と出会う。
大人を信用したことのない杏だが、なんの見返りも求めず就職を支援し、ありのままを受け入れてくれる多々羅に、次第に心を開いていく。週刊誌記者の桐野は、「多々羅が薬物更生者の自助グループを私物化し、参加者の女性に関係を強いている」というリークを得て、慎重に取材を進めていた。ちょうどその頃、新型コロナウイルスが出現。杏がやっと手にした居場所や人とのつながりは、あっという間に失われてしまう。行く手を閉ざされ、孤立して苦しむ杏。そんなある朝、身を寄せていたシェルターの隣人から思いがけない頼みごとをされる──。
このあらすじでは映画の深さは当然ですが伝わりません。
刑事の多々羅を佐藤二朗さん。週刊誌記者の桐野を稲垣吾郎さんが演じています。
この映画はR12指定です。覚せい剤使用のためのレートですね。
実際の事件ではどうかわかりませんが、この映画の諸悪の根源は杏の母親によるDVなのです。この母親(河井青葉さん)は鬼気迫るものがあります。
杏は虐待の中、育ってきたわけです。その過酷さは杏が漢字も読めないというレベルの教育環境だったことでもわかります。
しかし驚くほどの素直さを持って生まれています。
環境が彼女を苦しめ抜きますが、刑事の多々羅は更生できる子だと信じ寄り添っていきます。
彼の支援が杏を立ち直らせていきます。
生活の中にきらめく瞬間が現れてきます。
しかし私たち観客は心の中に「不安の通奏低音」を聴き続けています。
このままでは終わらないと。
このような映画はなんと呼ぶのだろう。社会派ドラマ、人間ドラマでしょうか。
リアルなのは、コロナが襲ってきて、勤めている介護施設から自宅待機をもとめられてしまうことです。
職場で親しくしていた入居者とも離れ、今まで身近にいた多々羅に会えない孤立した状況に陥ってしまうのです。
当時の閉鎖的な状況が思い出されゾッとしました。
この監督は日常の一コマ一コマを非常にていねいに映し出していきます。はしょった映画作りはしていません。
それゆえ映像にとても説得力があるのです。
大したものだと思います。
もちろんネタバレは禁止です。
お読みいただきありがとうございました。
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