岩清水日記

「あしひきの岩間をつたふ苔水のかすかにわれはすみわたるかも」良寛

書評:三浦雅士氏  『彼女について』よしもとばなな著

2009-01-26 09:41:21 | 
書評を読むということも、なかなかの楽しみです。
よき書評は、評者と著者の対話になっているようです。
よしもとばなな氏の『彼女について』についての三浦氏の書評は、両者の人生に
対する考え方(解釈)に根本において共通点があり、また共通の言葉があることにおいて、
人の心を深く揺さぶることができています。

私自身は『彼女について』を読んでいないので、この本について触れることは
できないのですが、評者は、この本が「この世とあの世の関係」を描いていており、
村上春樹氏や小川洋子氏の本が欧米で売れているのも、このことによるという。

「なぜ、欧米なのか?」という自身への問いに対して、「欧米では天国も地獄も
力を失ったからだ」と自答している。
この自問自答には、もっと詳しい説明が欲しかったのですが、紙面は限られています。

「日本の小説家たちは彼らに、彼岸がすぐそばにあることや、いや、人間は彼岸と
此岸を往還しながら生きていることを教えた。欠落を埋めたのである。」

評者は、谷川俊太郎氏と岩田宏氏の問答にも触れている。
谷川氏の「やさしさを定義してください」という問いを考えた岩田氏の答えは
「黙ってそばに居てあげること」だった。谷川氏は感嘆したという。

よしもとばなな氏の小説は「黙ってそばにいてくれる」小説だという。
この小説は、
「沈黙のなかに込められた言葉が解きほぐされ、やさしく編み直され、
ひっそりと敷きつめられているのである」。
この文章には驚いた。文章の力を感じた。

評論についてはいろんな意見があると聞いています。
しかし、評論の助けがなければ、理解できないことも多いのです。
評論の重要性は、情報が錯綜している現代においてはますます増すことでしょう。

今回の書評については「やさしい」ということに光を当てています。
私たちは、職業においても、また私生活においてもこの「やさしさ」を深く考える
必要があるのではないでしょうか。
私自身もその必要性を強く感じています。言うは易く実践できないからです。

私自身の「やさしさ」への取り組みは、「よく聴く」ということから始まると
考えています。

この書評からは多くのことを学びました。

※写真は京都の自宅から。この地域より南には、雪雲はほとんど行かない。
丁度、気候の境目のような土地です。この日は寒波が南下しました。


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