社会保障に興味を持って、勉強をし始めていますが、医療の現場の過酷さは目を覆うばかりです。
特に、社会の高齢化に伴ってどうしても上がらざるをえない医療・介護に対して、なんとしても医療費を上げまいとする施策が取られてからというもの、過酷な値下げが現場を苦しめています。
いつも送られてくるMRICという医療関係のブログ記事の一つをご覧ください。
---------- 【ここから引用】 ----------
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「大学病院はもう限界 医療の最後の砦の現状」
山形大学医学部長
嘉山孝正
2009年12月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp
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【独法化は医療を救うか、滅ぼすか】
特定機能病院は高度医療を開発、そして提供すると同時に、医師の教育を担う医療の中核を担う存在である。いわば、国立がんセンターなどのナショナルセンターと同じような機能を果たしている。現在、ナショナルセンターの独立行政法人化に向けて、内閣府の検証チームと厚生労働省との間でつばぜり合いが行われている最中で、着地点が未だ見えない。
本稿では、一足先に独法化を行った大学病院の現状を紹介する。医療の最後の砦である大学病院は独法化後危機的な状況に陥ってしまっている。その原因は何かを考えて、その対策を提言したい。
【大学病院が担うもの】
大学病院の役割として教育、研究、診療がある。たとえば教育だと我々は医学生を国家試験に合格させないといけない。研究でももちろん成果を出すことが求められる。そして、診療。大学病院は日本の医療の中核であると同時に最後の砦である。
まずは日本の医療はどの程度のレベルなのかを確認する必要があるだろう。答えは、日本の医療は世界一であるということ。2009年のOECDのヘルスデータによれば、依然として総合で一位である。ちなみにアメリカは16位である。
その「世界一」の医療の中で大学病院やその他の特定機能病院が担っているのが難易度の高い医療である。たとえば、手術を例にしてみると、生体肝移植のすべては大学病院で行われている。
同じく難易度の高い、肝門部手術の82%は大学病院で行われている(DPC調査参加142施設における平成16年7月から10月までの退院患者データ)。そのほか高度医療の多くは大学病院が担っている。つまり、大学病院は手間のかかる難易度の高い医療を最後の砦として行っているのだ。
【大学病院が死ぬ、いや、もうすでに死んでいる】
難易度の高い治療には多くのスタッフが必要になる。また、高度な医療機器や薬剤も必要になる。かといって、それに比例して診療報酬が上がるわけではなく、足りない分は病院が持ち出すしかない。つまり、難しい医療を行えば行うほど、大学病院は赤字を背負うことになるのが現状である。
私は脳外科医である。先日行った、脳腫瘍摘出のために覚醒下脳手術を例に挙げよう。言語を司る部分の近くに脳腫瘍ができてしまったため、言語中枢を探しながら、かつなるだけ傷つけないようにするために、手術中も患者と話しながら、切除を行うという、最先端の手術である。
手術は成功し、患者は元気に帰っていった。しかし、病院には16万円ほどの赤字が残った。
脳腫瘍摘出術の保険点数は82万円分だ。これは、比較的少人数で行われる難易度の低いものも、今回のような難易度の高いものも一律である。しかし、実際は機器使用料として48万円、最低必要なスタッフ13人分の人件費26万円、消耗治療材料として24万円で合計98万円が必要になった。そして、差額の16万円が病院の赤字になった。次に説明するように、人件費はこれ以上切り詰められないぐらいに圧縮してあるのに、これだけの赤字がでるわけである。
他にも急性大動脈解離、心筋梗塞、難しい小児救急疾患、ハイリスク分娩など、大学病院が引き受けている不採算医療は枚挙に暇がない。これでは大学病院は立ちゆかない。最後の砦はまさに落ちる寸前なのだ。
【特定機能病院の医師の処遇】
大学病院の人件費は極めて安く切り詰められている。特に医師の待遇は厳しいものがある。大学病院の医師の半数が研修医や医員といった日々雇用である。
例えば医員は平均33歳、給与年額が約300万円である。30歳過ぎても正社員になれないままなのだ。さらに、国立大学協会のデータによると特定機能病院の30代の医師の一週間あたりの平均勤務時間は97時間と長時間である。
【独法化の影響】
さらに、驚くべき事実がある。大学病院で正社員にあたる職員、たとえば教授や講師であるが、これらは文部教官であり、人件費は医療費からまかなわれているわけではないのだ。この代わりに文部科学省による補助金等で賄われている。具体的に言えば、2001年の東京大学病院の半分近くは補助金だった。つまり、これで大学病院の持ち出し分を補っていた。
補助金の一つある運営費交付金は、国立大学病院全体で2004年度は584億円だったが、独法化に伴もない2009年度は207億円にまで減少した。独法化当初、大学病院の診療報酬収入を2%上げ、その代わりにこれらの交付金を減らす計画が立てられたが、実際には交付金の減額が医療費の増益をはるかに上回り、国立大学法人は2009年度予算全体で197億円の赤字となった。私立医科大学についても、2008年度決算で80億円の赤字となっている。
現在、多くの大学では赤字部分を、大学本体から補填してしのいでいる。私も病院長として山形大学で様々な改革を行ったが、もうその限界を超えたと感じている。患者数もついに減った。先に待っているのは、大学病院崩壊とそれによる地域医療崩壊、そして大量の医療難民である。
大学病院の財政状況のデータからみれば、2010年度には、8割の国立大学病院が赤字になると私は予想している。現在大学は法人化されているので、ヘタをすれば不渡り手形を出すことになり、大学病院は倒産するのだ。このような状況にあるのは、これが良かったのか悪かったのかは別として、我々が大学で不採算の医療をやってきた結果である。
【最後の砦を救うために】
医療機関の健全な経営のためには、医療費で自立できるようにすることが重要だと私は考える。
具体的には、大学病院が健全に医療費で自立するために、1)特定機能病院の入院料を50%増やす。2)DPC係数を1.9にして、2996億円(医療費総額の0.88%に相当)増やす。この2つを私は提言する。このような対策を講じれば大学病院は何とかやっていける。そして、大学病院の崩壊によって生み出される医療難民の発生を防ぐことができるのだ。
今回の記事は転送歓迎します。その際にはMRICの記事である旨ご紹介いただけましたら幸いです。
MRIC by 医療ガバナンス学会
http://medg.jp
---------- 【引用ここまで】 ----------
お医者さんと言えば高額所得者の代名詞と思われがちですが、大学病院などの勤務医の過剰労働と低所得の惨状はあまり世間に知られることはありません。
医は算術などと揶揄されることもありますが、医師の多くは奉仕の精神に満ちあふれていて、算術よりも患者の治癒に全力を尽くすマインドの方が多いのです。
しかしその奉仕の精神にも限界があります。地域の医療がぽろぽろと崩壊を始めているのはなによりその予兆であると感じなくてはなりません。
※ ※ ※ ※
そもそも医師という職業には圧倒的な情報を持つという特殊な能力が備わっています。患者の情報レベルでは到底たどり着けないものを持っているがゆえに然るべき報酬も払われる存在なのです。
慶応大学の権丈先生はこう言います。
「みかんを買いたいと思って果物屋に出かけ、そこで店主が『あなたの欲しいのはみかんではなくメロンです』と言われたとき、『メロンですか。てっきりみかんだと思っていました。ありがとうございます』という反応を示すだろうか。
医療では、風邪だと思って病院を訪れ、そこで医師から『風邪ではなく肺炎です』と言われれば、思わず『肺炎ですか。てっきり風邪だと思っていました。おかげさまで助かりました』という状況になりかねない。
こういう状況が起こり得ることは、医療の世界では医師誘発需要理論という考え方で説明できる[10]のであり、わたくしは医師誘発需要理論は、医療の実態をかなりうまく説明していると考えている。
つまり、わたくしは医療における情報の問題は、他の財・サービスと比べて、やはり深刻であると考える方に属していると思う。店主にあなたの欲しいものはあなたが言っているものではなく、他のものですと言われて、はいそうですか、ありがとうございますということが、他の財・サービスでしばしば起こるとは、わたくしにはなかなか考えにくい」(2005年1月5日勿凝学問25.5ver.2)
医療という特別な分野をよく表したお話でしょう。
救急や小児医療には、今や様々なしわ寄せが来たと考えられています。別な記事では、「救急医療現場で行われる心臓マッサージは1時間で2900円です。これは、駅前のマッサージより安価です」
命を救う心臓マッサージが駅前のマッサージサービスより安いとはどういう制度なのでしょうか。そろそろ国民も医療の現状を本気で考えなくてはなりますまい。
特に、社会の高齢化に伴ってどうしても上がらざるをえない医療・介護に対して、なんとしても医療費を上げまいとする施策が取られてからというもの、過酷な値下げが現場を苦しめています。
いつも送られてくるMRICという医療関係のブログ記事の一つをご覧ください。
---------- 【ここから引用】 ----------
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「大学病院はもう限界 医療の最後の砦の現状」
山形大学医学部長
嘉山孝正
2009年12月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp
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【独法化は医療を救うか、滅ぼすか】
特定機能病院は高度医療を開発、そして提供すると同時に、医師の教育を担う医療の中核を担う存在である。いわば、国立がんセンターなどのナショナルセンターと同じような機能を果たしている。現在、ナショナルセンターの独立行政法人化に向けて、内閣府の検証チームと厚生労働省との間でつばぜり合いが行われている最中で、着地点が未だ見えない。
本稿では、一足先に独法化を行った大学病院の現状を紹介する。医療の最後の砦である大学病院は独法化後危機的な状況に陥ってしまっている。その原因は何かを考えて、その対策を提言したい。
【大学病院が担うもの】
大学病院の役割として教育、研究、診療がある。たとえば教育だと我々は医学生を国家試験に合格させないといけない。研究でももちろん成果を出すことが求められる。そして、診療。大学病院は日本の医療の中核であると同時に最後の砦である。
まずは日本の医療はどの程度のレベルなのかを確認する必要があるだろう。答えは、日本の医療は世界一であるということ。2009年のOECDのヘルスデータによれば、依然として総合で一位である。ちなみにアメリカは16位である。
その「世界一」の医療の中で大学病院やその他の特定機能病院が担っているのが難易度の高い医療である。たとえば、手術を例にしてみると、生体肝移植のすべては大学病院で行われている。
同じく難易度の高い、肝門部手術の82%は大学病院で行われている(DPC調査参加142施設における平成16年7月から10月までの退院患者データ)。そのほか高度医療の多くは大学病院が担っている。つまり、大学病院は手間のかかる難易度の高い医療を最後の砦として行っているのだ。
【大学病院が死ぬ、いや、もうすでに死んでいる】
難易度の高い治療には多くのスタッフが必要になる。また、高度な医療機器や薬剤も必要になる。かといって、それに比例して診療報酬が上がるわけではなく、足りない分は病院が持ち出すしかない。つまり、難しい医療を行えば行うほど、大学病院は赤字を背負うことになるのが現状である。
私は脳外科医である。先日行った、脳腫瘍摘出のために覚醒下脳手術を例に挙げよう。言語を司る部分の近くに脳腫瘍ができてしまったため、言語中枢を探しながら、かつなるだけ傷つけないようにするために、手術中も患者と話しながら、切除を行うという、最先端の手術である。
手術は成功し、患者は元気に帰っていった。しかし、病院には16万円ほどの赤字が残った。
脳腫瘍摘出術の保険点数は82万円分だ。これは、比較的少人数で行われる難易度の低いものも、今回のような難易度の高いものも一律である。しかし、実際は機器使用料として48万円、最低必要なスタッフ13人分の人件費26万円、消耗治療材料として24万円で合計98万円が必要になった。そして、差額の16万円が病院の赤字になった。次に説明するように、人件費はこれ以上切り詰められないぐらいに圧縮してあるのに、これだけの赤字がでるわけである。
他にも急性大動脈解離、心筋梗塞、難しい小児救急疾患、ハイリスク分娩など、大学病院が引き受けている不採算医療は枚挙に暇がない。これでは大学病院は立ちゆかない。最後の砦はまさに落ちる寸前なのだ。
【特定機能病院の医師の処遇】
大学病院の人件費は極めて安く切り詰められている。特に医師の待遇は厳しいものがある。大学病院の医師の半数が研修医や医員といった日々雇用である。
例えば医員は平均33歳、給与年額が約300万円である。30歳過ぎても正社員になれないままなのだ。さらに、国立大学協会のデータによると特定機能病院の30代の医師の一週間あたりの平均勤務時間は97時間と長時間である。
【独法化の影響】
さらに、驚くべき事実がある。大学病院で正社員にあたる職員、たとえば教授や講師であるが、これらは文部教官であり、人件費は医療費からまかなわれているわけではないのだ。この代わりに文部科学省による補助金等で賄われている。具体的に言えば、2001年の東京大学病院の半分近くは補助金だった。つまり、これで大学病院の持ち出し分を補っていた。
補助金の一つある運営費交付金は、国立大学病院全体で2004年度は584億円だったが、独法化に伴もない2009年度は207億円にまで減少した。独法化当初、大学病院の診療報酬収入を2%上げ、その代わりにこれらの交付金を減らす計画が立てられたが、実際には交付金の減額が医療費の増益をはるかに上回り、国立大学法人は2009年度予算全体で197億円の赤字となった。私立医科大学についても、2008年度決算で80億円の赤字となっている。
現在、多くの大学では赤字部分を、大学本体から補填してしのいでいる。私も病院長として山形大学で様々な改革を行ったが、もうその限界を超えたと感じている。患者数もついに減った。先に待っているのは、大学病院崩壊とそれによる地域医療崩壊、そして大量の医療難民である。
大学病院の財政状況のデータからみれば、2010年度には、8割の国立大学病院が赤字になると私は予想している。現在大学は法人化されているので、ヘタをすれば不渡り手形を出すことになり、大学病院は倒産するのだ。このような状況にあるのは、これが良かったのか悪かったのかは別として、我々が大学で不採算の医療をやってきた結果である。
【最後の砦を救うために】
医療機関の健全な経営のためには、医療費で自立できるようにすることが重要だと私は考える。
具体的には、大学病院が健全に医療費で自立するために、1)特定機能病院の入院料を50%増やす。2)DPC係数を1.9にして、2996億円(医療費総額の0.88%に相当)増やす。この2つを私は提言する。このような対策を講じれば大学病院は何とかやっていける。そして、大学病院の崩壊によって生み出される医療難民の発生を防ぐことができるのだ。
今回の記事は転送歓迎します。その際にはMRICの記事である旨ご紹介いただけましたら幸いです。
MRIC by 医療ガバナンス学会
http://medg.jp
---------- 【引用ここまで】 ----------
お医者さんと言えば高額所得者の代名詞と思われがちですが、大学病院などの勤務医の過剰労働と低所得の惨状はあまり世間に知られることはありません。
医は算術などと揶揄されることもありますが、医師の多くは奉仕の精神に満ちあふれていて、算術よりも患者の治癒に全力を尽くすマインドの方が多いのです。
しかしその奉仕の精神にも限界があります。地域の医療がぽろぽろと崩壊を始めているのはなによりその予兆であると感じなくてはなりません。
※ ※ ※ ※
そもそも医師という職業には圧倒的な情報を持つという特殊な能力が備わっています。患者の情報レベルでは到底たどり着けないものを持っているがゆえに然るべき報酬も払われる存在なのです。
慶応大学の権丈先生はこう言います。
「みかんを買いたいと思って果物屋に出かけ、そこで店主が『あなたの欲しいのはみかんではなくメロンです』と言われたとき、『メロンですか。てっきりみかんだと思っていました。ありがとうございます』という反応を示すだろうか。
医療では、風邪だと思って病院を訪れ、そこで医師から『風邪ではなく肺炎です』と言われれば、思わず『肺炎ですか。てっきり風邪だと思っていました。おかげさまで助かりました』という状況になりかねない。
こういう状況が起こり得ることは、医療の世界では医師誘発需要理論という考え方で説明できる[10]のであり、わたくしは医師誘発需要理論は、医療の実態をかなりうまく説明していると考えている。
つまり、わたくしは医療における情報の問題は、他の財・サービスと比べて、やはり深刻であると考える方に属していると思う。店主にあなたの欲しいものはあなたが言っているものではなく、他のものですと言われて、はいそうですか、ありがとうございますということが、他の財・サービスでしばしば起こるとは、わたくしにはなかなか考えにくい」(2005年1月5日勿凝学問25.5ver.2)
医療という特別な分野をよく表したお話でしょう。
救急や小児医療には、今や様々なしわ寄せが来たと考えられています。別な記事では、「救急医療現場で行われる心臓マッサージは1時間で2900円です。これは、駅前のマッサージより安価です」
命を救う心臓マッサージが駅前のマッサージサービスより安いとはどういう制度なのでしょうか。そろそろ国民も医療の現状を本気で考えなくてはなりますまい。