国交省職員から岩手県知事、そして総務大臣も経験された増田寛也さんによる編著「地方消滅~東京一極集中が招く人口急減」を読みました。
以前から話題になっていた本ですが、職場の幹部から「改めてちゃんと読んでおくように」という連絡があってようやく手にしました。
本の帯には「896の市町村が消える前に何をすべきか」と書かれていて、消滅可能性の自治体を赤色で塗った衝撃的な日本地図が描かれています。
我が国全体としては少子高齢化が叫ばれ、子供が少なくなっていることから(やがて人口が減るんだろうな)と漠然と考えている人が多いことかと思います。
しかしそれを地方都市の具体的な現場での減少として捉えると、それは地方自治体が消滅するという形で現れるのだ、というのが本書の指摘。そして人口の増減は【子供を産み育てることができる女性の数によって決まる】という『若年女性人口』という概念に着目しました。
子供を産み育てる能力をもっている人たちの集団がどう動くかということが人口動態を決めるというのは実に炯眼です。
そもそも国全体の人口は、子供を生み育てる女性の数とその女性が何人の子供を持つかという出生率で予測できますが、地域の人口となるとそうして生まれる子供による自然増に加えて、引っ越しや転勤などによる社会的増減によって決まってきます。
急速に人口を減らしている地方部の小規模自治体では、女性が少なくなって子供が生まれないという事情に加えて、仕事や魅力を求めて若い男女が進学、就職のために都会に出て行ってしまい地域に残らないという現象が発生しています。
せっかくの地元の子供も、働き結婚して子育てをするという世代としては地元で暮らさない。だから地域の人口はどんどん減るのだと。
そうした若年世代が向かう先は、地域の中心都市であり究極の大都市東京です。
ところが若い世代の子育て動向を見ていると、実は地方に暮らしている方が出生率は高く逆に東京は子育てのハードルが高くて子供を産み育てようという人が少ないのです。そのため東京は若者を集めては子供を産み育てない、人口増のためには全く貢献しないブラックホールになっていると増田さんは指摘します。
東京は自分たちで人口増には寄与貢献せず、地方から人材をただ集めては無駄遣いしている都市であると。
このような姿を増田さんは、「まるで、東京圏を始めとする大都市圏に日本の人口が吸い寄せられ、地方が消滅していくかのようである。その結果現れるのは、大都市圏という限られた地域に人々が凝縮し、高密度の中で生活している社会である。これを我々は『極点社会』と名づけた」と書いています。
つまり大都市に人口が集中することは、効率化と集中による魅力が増大する反面、大規模災害の被害度合いを多くしてしまい、しかも長期的には人口減少に繋がる事象であることから、これからの日本は、『極点社会』の到来を回避し、地方が自立した多様性のもとで持続可能性を有する社会の実現を目指すことが重要となるのです。
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東京へ東京へと若者がなびいてしまうことへの「防衛・反転線」は、若者にとって地方が魅力ある地域になれるかどうか、ということにかかってきます。そしてその魅力を集積させる拠点になるのは"地方中核都市"でありそれを軸とした「新たな集積構造」が求められる基本方向となるでしょう。
地方と大都市で圧倒的に差がついてしまうのは就職の機会です。地方には仕事がなくて本当は住んでいたいのにやむなく地方を離れる人は多いはず。
増田さんによると地方の中規模のモデル都市で言うと、地域経済はおおよそ年金、公共事業、それ以外の「自前」の産業がそれぞれ三分の一ずつで回っているとのこと。
しかし高齢者の年金だって、65歳以上の高齢者はあと十年間で三割増えてそこで頭打ち。そこから先は高齢者も減ってゆき、これを頼りにしているコンビニや商店も早晩立ち行かなくなることでしょう。
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本書では人口減少最先端地域として北海道を取り上げ、北海道総合研究調査会(通称"HIT")の調査結果を用いて北海道の現状分析と果たすべき政策等についても触れています。身近な地名が出てきて頑張っている自治体として中標津町、ニセコ町、音更町などをとりあげて好事例として紹介しています。
こうした地域では農業や観光などの地域経済を回すエンジンが機能していて、若者の定着度合いが高いことから人口の増加安定という面で極めて良好な形になっています。
しかしこれらを全ての市町村で果たすことができるわけではなく、どうしても都市的機能や商業機能を地方中核都市に委ねて縮小を余儀なくされる地域も出てくることでしょう。逆に言えば、だからこそ地方中核都市は地域を支えるつもりで頑張らなくてはなりません。
地方で雇用をつくる企業活動について編者の増田さんはこう言っています。
「グローバル経済の時代と言われますが、全ての企業がグローバルである必要はありません。グローバル経済に対応する企業は日本の企業の中のせいぜい二割程度ではないか。残りの八割はローカル経済の論理で動いています。新陳代謝や代替性はあまり効かなくて、維持することの方が重視される。でもそれが悪いというわけではないのです。地域交通や地方の旅館などでも、儲けが出ればそれに越したことはないけれど、何とか成り立っているという状態こそが、その地域にとって非常に有益である例はいくらでもあります」
儲かってどんどん事業規模を拡大させてゆくという経済活動ではなく、せいぜいトントンになれば良くて、事業を継続させてゆくことが地域の雇用を維持することだと割り切ってそこに注力する。地方にはそういう企業が沢山あれば良いというのです。
そう聞くと少し心が楽になりそうです。そしてそういうところで働いて結婚して子供をのびのびと育てる。
そういう価値観を尊重するようなところから始めないといけないかもしれませんが、とにかく東京へ行くことが出世で、地域にいることを情けなう思う必要はない。
これは掛川の生涯学習がまさに求めた姿です。昭和52年に作られた掛川市の生涯学習都市宣言を改めて読み返したくなりました。
地域に貢献してみたいと思う方はぜひご一読をお勧めします。