昨日の蕎麦談義はフェイスブックでシェアしてくれた方もいて、ずいぶん多くの方に読んでいただいたようです。改めて蕎麦好きって多いのだなあと驚きました。
さて今日は私のちょっと恥ずかしい蕎麦エピソードをご紹介します。
平成8年に信州安曇野へ転勤をして公園事務所で公園づくりを始めた私でしたが、最初はこの信州の人たちに受け入れられるために、地元の人たちが誇りに思うものを勉強して共感をしよう、と思い立ちました。
そこで信州安曇野の人たちの誇りは何かな?と思ってよくよく見ていると、どうやら「北アルプスと蕎麦」が自慢らしいということが分かってきました。
北アルプスのことは地域の西側に屏風のように立ち上がって美しく、地元の皆さんは"西山"と呼んでいました。
そしてもう一つが蕎麦、ということで県内の名だたる蕎麦屋を食べ歩いて一軒一軒の感想をエクセルに書き込むということをしていました。
すると最初は「美味い蕎麦とは何か」ということすら分からなかったのが、30~40軒を過ぎるころから「おいしい蕎麦とは風味やコシがある蕎麦だ」ということが分かってきました。
(なるほどなるほど、そういうことか)と少しは蕎麦が分かってきて嬉しくなっていた頃合いに、南信は伊那谷であるお蕎麦屋さんに入りました。
そこもこの地域では美味しいと評判のお蕎麦屋さん。さっそく大盛りを頼んでちょっと太めのお蕎麦をズズッといただいたのですが…(んん…?)ちょっと思ったようなコシがありません。
噛むとグンと返ってくるような強いコシを期待したのに、なんだかグニュッというようなやわらかくてツルンとした食感なのです。
(なんだこりゃ…?)
訳が分からなくなって、途中まで食べ進んだところでおずおずとお店の方に声をかけて、「あのう…これはゆで時間が長かったとかそういうことはありませんか?」と訊いてしまいました。
すると女性の店員さんは「あら、柔らかかったかしら。それじゃ茹でに気を付けてもう一枚お出しします」と言って、私の蕎麦を食べもせず蕎麦をもう一枚出してくれました。
「ああ、ありがとうございます!」とお礼を言って、出された蕎麦を食べましたが…、やっぱりほぼ同じ食感。蕎麦の断面の角が分かるような強いコシは出ていません。
もういいや、と思ってお代を払って店を出ましたが、お店の方は私がなんとなく満足していないことを悟って、ちょっと申し訳ないような素振りです。
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そんなことがあって、有名店でもあまり美味しくない蕎麦があるんだな、と勉強になったと思っていたのですが、その後あるときに、全く同じような食感の蕎麦を食べて、その時のお店のことを思い出しました。
実は同じ食感の蕎麦は、「一本引き」という粉で打ったそばでした。
普通蕎麦粉は石臼などで挽いて、細かくなった粉を篩でふるい分けして大きい粉を又挽いて…と何度も挽きます。
そして出てくる順番に一番粉、二番粉、三番粉…とわけてこれらを適当なバランスでミックスして使います。
一番粉を多くして打てば更級蕎麦になりますし、二番粉、三番粉と蕎麦の実の外側が入って来ると緑色が強くなり田舎蕎麦らしくなります。
そして「一本引き」とは、これらを分けずに全部を混ぜ込んだ粉で、これで打った蕎麦は田舎っぽい味なのにどこか更科の様なプルプルした感じが残ります。
実はかつて伊那谷で食べた蕎麦もまさにこの一本引きの粉を使っていたに違いありません。それはそれで一つのお店のポリシーだったわけで、私がそういうジャンルを知らない無知でした。
田舎蕎麦のような強いコシこそが美味い蕎麦の条件のように思っていた私は、それを知って(私の無知ゆえに、あの時のお店に悪いことをしたなあ)と恥ずかしく思ったのです。
もしも「一本引き」なんて単語を聞いたら、どういう食感化を確かめていただくのも良いかもしれません。
本当に蕎麦は奥が深いのです。