北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

白河の関から蝦夷地に繋がる物語

2022-08-24 21:58:17 | Weblog


   【奥州三古関の一つ『鼠ヶ関』(山形県)】

 

 今年の夏の甲子園大会は宮城県の仙台育英高校が優勝。

 深紅の大優勝旗が「白河の関を超えた」と話題になりました。

 白河の関というのは、その昔に都と陸奥の国の境として作られた古関で、勿来の関(福島県)と鼠ヶ関(山形県)と共に「奥州三古関」と言われます。

 ただ調べてみると、実はどこも"ここにあった"と確信を持って言えるようなところはなさそうです。

 それぞれ古い書物にあったり歌枕として和歌に詠まれたなどの曰く因縁から推定して「このあたりだろう」と言うところに比定して石碑などを建て史跡とされています。

 今日では東北地方と関東地方を分ける境のシンボリックな場所として使われることの方が多いでしょう。

 ちなみに白河の関は、江戸時代老中田沼意次による政治の後を受けた寛政の改革で知られた松平定信候が長く藩主を務められたところで、この松平定信候が文献による考証を行い寛政12(1800)年に今の白河神社が白河の関跡であると論じ、その後昭和41(1966)年に国の史跡に指定されています


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 さて、賄賂政治として評判の悪い田沼意次候と寛政の改革で緊縮財政をやりすぎて評判を失った松平定信候が登場しましたが、この二人はどちらも蝦夷地開拓には所縁のある方です。

 まず田沼の方は、天明元(1781)年から天明6(1786)年にかけて老中を務めましたが、この間には天明3年の岩木山と浅間山噴火による噴出物で太陽光が遮られ後に江戸四大飢饉の中でも最もひどかったといわれる天明の大飢饉に見舞われます。

 それらの対策に追われる中、ロシアが北方の島々でアイヌを懐柔しているという風聞を聞くに及び、天明5年6年と蝦夷地を東西から船で一周する調査団を送り込みました。

 調査団は「樺太、国後、択捉などの北方の島を含め蝦夷地を耕作適地と判断し、蝦夷地を新田開発すれば幕領の400万石を超える583万石の収入が手に入り、それはアイヌを3万、穢多・非人を7万人移住させれば賄える」と主張し、北海道開拓と北方警備への関心を引き寄せます。

 しかし二度目の調査活動実行中の天明6年に田沼失脚となり、調査の結果は沙汰止みとなり大きな動きにはなりませんでした。

 対ロシア防衛や蝦夷地開発という機運が初めて芽生えたのが田沼意次治世であり、この間に蝦夷地探検が行われたということは道産子ならば知っておいてほしいと思います。


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 また松平候は、田沼の評価を否定して反田沼キャンペーンを張ったと言われているのですが、最近の研究では、田沼の財政改革手法など良かれと思う点は引き継いだ是々非々の対応をしたとも言われています。

 ロシアからの蝦夷地の防衛について松平候は、『蝦蝦夷地の支配は、従来通り松前藩に任せる。数年に一度、幕府役人を巡回させる。大筒を配備する。御救貿易を行う。オランダの協力の元で様式軍艦を建造して北海警備に当たる』などの基本方針を策定して海防強化に努めています。

 つまり決して田沼のやったことを全否定したわけでもありません。

 逆に、その松平候が失脚した後には、蝦夷地防衛の考え方は中止され、結果として1804年にレザノフが来航した際の強硬な拒否の態度は彼の部下だったフヴォストフによる樺太、択捉、利尻などが襲われる事件(フヴォストフ事件=文化露寇(ぶんかろこう))を巻き起こしています。

 さらに松平候と北海道の関わりでいうと、松平候は人材登用の手段として昌平坂学問所で学力試験を行い、その際に好成績を上げた近藤重蔵が登用され後に寛政10(1798)年の蝦夷地探検隊を率いたということがあります。

 田沼、松平と蝦夷地開発と対ロシア防衛への関心が高まっていたのに対して、その後の幕府の対応は稚拙で、レザノフ来航後にフヴォストフ事件、ゴローニン事件といった緊張状態を招きました。

 ゴローニン事件は高田屋嘉兵衛の活躍などにより無事に解決し、またロシア帝国がナポレオン戦争で東方への関心がそれどころではなくなったことで、蝦夷地をめぐる外交軋轢は消え去ったことは日本にとっては幸運でした。

 結局、蝦夷地は一時の幕府直轄から松前藩に差し戻され明治維新を迎えます。

 江戸時代の後半に蝦夷地開発が始まっていたら今のような北海道開拓のスタイルにはならなかったことでしょう。

 しかし本格的な北海道の開拓が屯田兵と言う形で北方警備と共に始まったのが今の私たちの暮らしに繋がっています。

 歴史のちょっとしたアヤも面白いですね。

コメント
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