尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

朝鮮半島情勢をどう考えるか

2018年05月10日 22時51分05秒 |  〃  (国際問題)
 2017年4月27日に、朝鮮半島の南北首脳会談が行われて、板門店(パンムンジョム)宣言が発表された。まだ2週間も経っていないけど、世界が大きく変わてしまった感がする。それ以前に米朝首脳会談の開催が公表されていて、元々の合意では今月中にある。9日に北朝鮮で拘束されていた3人の米国人が解放され、米国帰国時にはトランプ大統領自らが出迎えた。一方、今まで正式には国内で報道していなかった北側もトランプ大統領との会談を報じたという。遠からず米朝首脳会談が行われ、そこで何らかの合意がなされる可能性が高いと考えるべきだろう。(その後、トランプ大統領のツイッターが「6月12日、シンガポールで米朝会談」と伝えた。)
 (南北首脳会談時の両首脳夫妻)
 その合意はもちろん「完全な核廃棄」を約束するものになる。そのやり方や時期、検証法は不明だが、それらが全部事前に判っているなら、トランプとキム・ジョンウンが会う必要もない。両首脳が「取引(ディール)」の見せ場を作る意味でも、最後の駆け引き的な部分が残ると考えられる。だけど、イラン核合意を攻撃するトランプがそれなりの成果の見込みなしに会談するはずがない。「首領様」が「失敗」することもありえないから、両者がそれなりに成果を宣伝できる見通しが出来てきていると考えられる。お互いに「平和の旗手」なんかではなく、「ロクデナシ」どうしだと相互認識していると思うから、会談もまとまるのではないか。

 日本の安倍政権は未だに「制裁実施」のみ強調して回っている。むろん、国連加盟国は安保理決議を順守する義務があるわけだから、現時点では「お説御もっとも」とでも言うしかない。「北朝鮮危機」を権力の源泉にしてきた安倍政権は、事態の進展に付いていけてないし、未来に向かった知恵が感じられない。まあ日本の問題はともかくとして、どうして安保理決議が通ったのだろうか。イスラエルに関する決議はアメリカが、シリアのアサド政権に関する決議はロシアが、それぞれ反対するから、どんなに道理があることでも安保理で決まらない。

 一方、北朝鮮の核開発や長距離弾道ミサイル開発には、中国もロシアも安保理で反対しなかった。だから制裁が可決された。その時点では、キム・ジョンウンとしてもそれで良かったという判断だったのだろう。何故なら、核やミサイル開発を進めてこそアメリカが振り向くはずだという戦略だったんだろうから。アメリカ側から見れば、制裁を強化すればどこかで折れてくるということになる。「チキン・レース」を展開していたわけだが、その結果国連内で誰も北朝鮮を擁護できなくなった。今後はそれじゃ困るということが、度重なるキム・ジョンウンの中国訪問なんだと思う。

 1953年7月27日に結ばれた朝鮮戦争休戦協定は、もともと国連軍北朝鮮、中国の間で結ばれている。国連軍は事実上アメリカ軍が主導で、米陸軍のハリソン中将が署名した。なんで国連軍結成にソ連が拒否権を行使しなかったかというと、当時アメリカが主導していた国連運営に抗議して、ソ連は国連を欠席する戦術を取っていたからである。北側の攻撃開始はソ連のスターリンが承認していた。なぜ直ちに国連に復帰しなかったのかはよく判らない。中国は義勇軍という形で大量の人民解放軍を派遣したから、朝鮮戦争を終わらせるためには中国の関わりが必須になる。中国は平和条約の当事者である。

 国連軍は形の上では今も残っている。日本にも後方司令部があって横田基地に置かれている。(構成国は米英仏オーストラリア、ニュージーランド、フィリピン、タイ、トルコと韓国。)今韓国にいる米軍は、休戦協定締結後の1953年11月に結ばれた米韓相互防衛条約に基づくものとされる。だから朝鮮戦争の平和条約が結ばれても、国連軍の使命は終わるけど、米軍が韓国から引きあげなくてはならないわけではない。しかし、北が完全に核とミサイルを放棄し、それを中国が擁護し保護することになったなら、米軍撤退問題も起きてくるかもしれない。

 最近の事態を見て「朝鮮統一」が近いかのように語る人もいる。しかし、それは違うだろう。分断の固定化がいましばらくは強まる。何だかんだ言っても、中国は東北部が「カラー革命」の震源にならないように、「北朝鮮」の存在が必要なんだと思う。まかり間違って朝鮮労働党政権が崩壊してしまって、米軍のプレゼンスが鴨緑江岸にも及んでしまうことだけは中国は避けたい。そこでキム・ジョンウン政権が「恭順」の意を示して来れば、全面的に抱え込んでいく。韓国が「米国の核の傘」のもとにある限り、核を放棄した北朝鮮は「中国の核の傘」に置く。

 これが当面の方向性なんだろうと思う。しかし、そのような「平和」でいいのかが今後問われてくる。日本にとって朝鮮戦争は「対岸の火事」ではなかった。憲法9条がありながら、警察予備隊を作って事実上の再軍備に乗り出したのは、朝鮮戦争後のマッカーサー指令による。朝鮮戦争が完全に終結するときには、日本の「戦後」も見直してみる必要が出てくる。その前に日朝の国交正常化交渉が必要になる。とにかく戦争以来半世紀以上ずっと「休戦」でしかなかった南北朝鮮で、今が一番平和条約締結に近づいている。この機を逃してはいけないと思う。
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