2018年のアカデミー賞で脚色賞受賞、作品賞・主演男優賞・歌曲賞ノミネートの「君の名前で僕を呼んで」(Call Me By Your Name)がミニシアター系でヒットしている。とても美しい映画で、まさにこれが「BL」(ボーイズ・ラブ)映画だという感じだから、若い女性観客でいっぱいだ。最近はセクシャルマイノリティの映画が多いが、この映画はむしろ「ひと夏の思い出」映画の最高峰だろう。青春の出会いと別れ、喜びと悲しみを、イタリアの美しい風景の中で描いている。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/10/49/307ab13421b73ff9a618905a321c3e37_s.jpg)
イタリアの監督がイタリアで撮った映画だけど、これはベースは英語で進行するアメリカ映画である。主人公の一家は、毎夏北イタリアの別荘で過ごす。父はユダヤ系の大学教授で、ギリシャ・ローマ時代専門の考古学者。母はヨーロッパ各国語を話せる翻訳家。そんな環境で育ったエリオ・パールマンは、17歳で読書や音楽に親しむ青年である。(ピアノとギターができ、バッハやエリック・サティを弾いている。)毎年、父は仕事のアシスタントとして院生を呼んでいるが、今年は24歳のオリヴァーがやってくる。最初は知性あふれるオリヴァーを敬遠気味だったエリオだが…。
(左=エリオ、右はオリヴァー)
結局は惹かれあう二人だけど、当初は女性とも交際している。オリヴァーは恐らく「偽装」で、自分は同性愛者と認識してると思う。(自分の家ではとても認められないと言っている。)エリオはまだセクシャリティに揺らぎがあり、マルシアという女の子とのセックスも体験している。バイセクシャルというより、近くにいたオリヴァーの磁力に引かれてしまった感じだろうか。1983年という設定で、まだアメリカでも同性愛に厳しかったと思うが、エリオの両親は驚くほど自由である。
エリオはティモシー・シャラメ(1995~)で「インターステラー」でマシュー・マコノヒーの若い頃をやった人。オリヴァーはアーミー・ハマー(1986~)で、「ソーシャル・ネットワーク」や「コードネーム U.N.C.L.E.」のイリヤ・クリアキン役。この二人は実年齢より若い役だが違和感はない。建物や自然風景などが見事で、そこに二人を置くとよく似合うのである。自然の描き方が西欧的じゃない感じだと思って見ていたら、撮影がサヨムプー・ムックディプロームだった。タイのアピチャッポン・ウィーラセータクンの映画を撮っている人で、実に素晴らしい撮影で見応えがある。
それよりすごいのは、アカデミー賞で脚色賞を得たジェイムズ・アイヴォリー。1928年生まれで、6月7日に90歳となる。アイヴォリーと言えば、あの人である。「眺めのいい部屋」「ハワーズ・エンド」「日の名残り」などで、80年代から90年代にかけて文学の香り高き名作を連発し、ミニシアターブームのけん引役の一人だった。E・M・フォースターの遺作「モーリス」という同性愛者を描いた映画もあった。驚くほど若々しい脚本で、ずいぶん名前を聞いてなかったけど、さすがという感じだ。
当初はアイヴォリーも共同監督する予定だったというが、結局はイタリア人のルカ・グァダニーノ(1971~)が一人で監督した。二人監督は出資者が内紛を心配したんだそうだ。グァダニーノは「ミラノ、愛に生きる」や「胸騒ぎのシチリア」が日本でも公開されているが、どっちも見逃した。とても繊細で細やかな演出で、特にエリオの心情が切々と胸に迫る。アンドレ・アシマンという人の原作では1987年の設定だが、少し前に変えたという。それはエイズ時代の前にするためで、続編を計画中とのこと。監督は「恋人たちの距離」のような感じで作りたいと言ってるらしい。
リチャード・リンクレイター監督が実際の時系列に沿って描いた三部作映画、「ビフォア・サンライズ」「ビフォア・サンセット」「ビフォア・ミッドナイト」と続いた映画である。そういうクロニクルになったら興味深いと思うが、この映画はこれ一本で「ひと夏の思い出」映画として完結している。アメリカの「おもいでの夏」や日本の「旅の重さ」など若い時に見て一生忘れられない映画になった。ミシェル・ゴンドリーの「グッバイ、サマー」、ファティ・アキンの「50年後のボクたちは」、マイク・ミルズの「20センチュリー・ウーマン」など最近もずいぶんあるが、これらの映画は年齢が若い。同性愛を描いているけど、青春の痛みの映画として傑作だと思う。
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イタリアの監督がイタリアで撮った映画だけど、これはベースは英語で進行するアメリカ映画である。主人公の一家は、毎夏北イタリアの別荘で過ごす。父はユダヤ系の大学教授で、ギリシャ・ローマ時代専門の考古学者。母はヨーロッパ各国語を話せる翻訳家。そんな環境で育ったエリオ・パールマンは、17歳で読書や音楽に親しむ青年である。(ピアノとギターができ、バッハやエリック・サティを弾いている。)毎年、父は仕事のアシスタントとして院生を呼んでいるが、今年は24歳のオリヴァーがやってくる。最初は知性あふれるオリヴァーを敬遠気味だったエリオだが…。
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結局は惹かれあう二人だけど、当初は女性とも交際している。オリヴァーは恐らく「偽装」で、自分は同性愛者と認識してると思う。(自分の家ではとても認められないと言っている。)エリオはまだセクシャリティに揺らぎがあり、マルシアという女の子とのセックスも体験している。バイセクシャルというより、近くにいたオリヴァーの磁力に引かれてしまった感じだろうか。1983年という設定で、まだアメリカでも同性愛に厳しかったと思うが、エリオの両親は驚くほど自由である。
エリオはティモシー・シャラメ(1995~)で「インターステラー」でマシュー・マコノヒーの若い頃をやった人。オリヴァーはアーミー・ハマー(1986~)で、「ソーシャル・ネットワーク」や「コードネーム U.N.C.L.E.」のイリヤ・クリアキン役。この二人は実年齢より若い役だが違和感はない。建物や自然風景などが見事で、そこに二人を置くとよく似合うのである。自然の描き方が西欧的じゃない感じだと思って見ていたら、撮影がサヨムプー・ムックディプロームだった。タイのアピチャッポン・ウィーラセータクンの映画を撮っている人で、実に素晴らしい撮影で見応えがある。
それよりすごいのは、アカデミー賞で脚色賞を得たジェイムズ・アイヴォリー。1928年生まれで、6月7日に90歳となる。アイヴォリーと言えば、あの人である。「眺めのいい部屋」「ハワーズ・エンド」「日の名残り」などで、80年代から90年代にかけて文学の香り高き名作を連発し、ミニシアターブームのけん引役の一人だった。E・M・フォースターの遺作「モーリス」という同性愛者を描いた映画もあった。驚くほど若々しい脚本で、ずいぶん名前を聞いてなかったけど、さすがという感じだ。
当初はアイヴォリーも共同監督する予定だったというが、結局はイタリア人のルカ・グァダニーノ(1971~)が一人で監督した。二人監督は出資者が内紛を心配したんだそうだ。グァダニーノは「ミラノ、愛に生きる」や「胸騒ぎのシチリア」が日本でも公開されているが、どっちも見逃した。とても繊細で細やかな演出で、特にエリオの心情が切々と胸に迫る。アンドレ・アシマンという人の原作では1987年の設定だが、少し前に変えたという。それはエイズ時代の前にするためで、続編を計画中とのこと。監督は「恋人たちの距離」のような感じで作りたいと言ってるらしい。
リチャード・リンクレイター監督が実際の時系列に沿って描いた三部作映画、「ビフォア・サンライズ」「ビフォア・サンセット」「ビフォア・ミッドナイト」と続いた映画である。そういうクロニクルになったら興味深いと思うが、この映画はこれ一本で「ひと夏の思い出」映画として完結している。アメリカの「おもいでの夏」や日本の「旅の重さ」など若い時に見て一生忘れられない映画になった。ミシェル・ゴンドリーの「グッバイ、サマー」、ファティ・アキンの「50年後のボクたちは」、マイク・ミルズの「20センチュリー・ウーマン」など最近もずいぶんあるが、これらの映画は年齢が若い。同性愛を描いているけど、青春の痛みの映画として傑作だと思う。