星のひとかけ

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Winterreise『冬の旅』:第十二章「孤独」Einsamkeit

2019-01-30 | 文学にまつわるあれこれ(詩人の海)


《Winterreise》の歌詞を英語で読めるサイトがあるのですが、 いつもこれを書くたび『冬の旅』の本に載っているドイツ語と日本語訳、 それから英語での訳を見比べて(ドイツ語が解らないので) 自分なりに理解しようとしています。

第12曲の「孤独」は 詩だけ読むと少し意外な印象がありました。
旅人は 炭焼き小屋で一夜を過ごし、 幸せだった春の夢を見、 目覚めて凍った窓に美しい葉模様を見て 夢が夢であったことに気づきます、、それが前章でした。
今の章はその続き… 外は明るい冬の蒼天です。 ぽっかりと浮かんだ雲… 樅の林を抜ける風…

「孤独」… の章はそんな光ある景色の中を歩いている場面。。

詩の第二連には 「durch helles, frohes Leben」とあります、、 (明るい、楽しい生=Life の中を)という意味のようです。

男は旅立ってからずっと一人でした、、 炭焼き小屋で凍えた手足が痛んで眠れない時も、 朝めざめて夢から現実に戻った時も《孤独》だったはず、、 でも、 青空の下を歩いている今が、 孤独だと歌うのです。
… そうなのかもしれません、、 周囲が見えて、 自分の行く先の景色、 あるいは遠くに町とか見えるのかもしれません、 人の生きている気配、、 その《世界》が見えることが 《孤独》を感じさせる…

 ***

ボストリッジさんは この章の楽曲(とくに音階など)の説明に4頁ほど費やしたあとは、 この12曲の意味解釈からはすこし離れて、 《孤独=ひとりでいること》の意味やシューベルトとの関係、 《旅人》についての意味や同時代の画家カスパー・ダーフィト・フリードリヒ(1774~1840)の絵画について 語っていきます。

特に フリードリヒ論(論といっても良いくらい詳しく語られます)の部分は 図版も何点もあり、 とても興味深かったです。 フリードリヒの絵画に描かれている《人物》について、 それが旅人であるのか否か、 その人物はどういう人なのか、 社会的・時代的な意味は… など。




この『冬の旅』の表紙に使われているのも フリードリヒの絵画だそうです、、 ここには一人の人物が描かれています。 修道僧? 旅人? でもここは廃墟のようです、、 この人物はいったい何処へ…?




(ボストリッジさんの本文からは少し離れて)
『冬の旅』の男は 眠る女性の家を離れて旅立ちました、、 《旅立ち》はしました。 、、でも ここまでの歩みは果して《旅》だったでしょうか…? 

、、山へ向かい、 菩提樹の繁っていた5月を想い出し、 凍った川に女性の名を刻み、 鬼火に惑わされ、 そして炭焼き小屋の一夜… 
、、 人生の旅という意味では この男の人生の、この歌以前の部分は不明で 兵士だったのか なにか闘争の日々があったのか 曖昧ですが何かは前半生はあったはずです。 でも『冬の旅』としては 本当の意味での《旅》をこの男が意識するのは 青空の下 たった一人で歩いている今が ようやく《旅》の始まりなのかもしれません。

旅、、 放浪、 彷徨、 さすらい、 流浪、、 探求、 冒険、、 逃避、、 どんな意味を持つ《旅》に男は向かうのだろう……

孤独、、 ひとりぼっち、 身一つ、 孤高、 独立、、 孤立、 無縁、 疎外、、 自由、、 《ひとりでいること》にも いろんな意味合いがありますね……


真っ青な空の下、、 たったひとりで歩いている今の風景は なんだか山頭火のようです。。 
 「分け入っても分け入っても青い山」
 「まったく雲がない笠をぬぎ」

或は 陽水さんの歌「青空ひとりきり」 …… なども想い出しました。

、、 でも 山頭火の境地には至っていないようですし、、 陽水さんの歌の抗いの熱もここには感じられない、、

詩の最後は  (以前の嵐の咆哮のさなかでも) 「war ich so elend nicht」=こんなに(侘しい・惨め)ではなかった、、 と 嘆く言葉で終わります。 
ピアノのダダダダ… と叩くような繰り返しはどこか大袈裟なくらいです。。 、、このピアノの高まりを聴くと この男の嘆きには一種のヒロイズムも感じたりもします、、 そうです ロマン派風の孤独のヒロイズム…

その先は、、 また歩みをみていくことにします。。


 ***

、、 それにしても (全然話はとびますが…)


シューベルツの「風」にしても(この歌詞が『冬の旅』にもとづいているということを半世紀くらい経ってやっと気づきました)、、 陽水さんの「青空ひとりきり」にしても、、 かつてのフォークソングには深い詩がたくさんありましたね、、

(あんまり小さすぎて意味わかっていませんでしたが、 歌詞を記憶できているというのはすごいことです)


心に刻まれる詩…  というのはそういうものなのでしょう…