星のひとかけ

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二十年後に…:『渇きと偽り』ジェイン・ハーパー著

2019-04-13 | 文学にまつわるあれこれ(鴉の破れ窓)
前回 ミステリー小説の読書記を書いてから 四半期が過ぎてしまいました。。

ずっとイアン・ボストリッジさんの『冬の旅』の読書記(>>)をつづけてきたからなのですが、 でもミステリーを読んでいなかったわけではなくて、 感想を書く時間がなかったのです…
、、もう読後の記憶もちょっと消えかけてしまっているけれど、、 少しだけ書いておきましょう、、(フォトには別の本も写っていますが気にせず…)


『渇きと偽り』 ハヤカワミステリ  ジェイン・ハーパー著 青木創 訳

オーストラリアのミステリー小説。 
生まれ故郷の幼馴染みの葬儀に参列するために 連邦警察官のフォークは20年ぶりに帰郷する。 それは 友人として参列するためでもあったが、 幼馴染みの《死の謎》を解明して欲しいと彼の父親に乞われたためでもあった、、 そして フォークにとって故郷の地を踏むことは 過去に起きたもうひとつの《謎の死》と フォーク自身の20年前の《過去》に再び向き合わねばならないことを意味していた…

舞台はオーストラリアの広大な農場や牧場がひろがる土地。 かつては豊かな緑がひろがっていたこの地は 異常気象がつづき干ばつに喘いでいる。 死んでいく家畜、 ひび割れる農地、、 住人の心も疲弊し、 隣人や共同体のひとびとの関係にも乾いた亀裂がひろがりつつある…

、、フォークがここで暮らしたのはティーンエイジまで。。 その頃には いつも行動を共にしていた仲間がいた、、 幼馴染みの友や 恋心を抱いた少女や…

、、 そして《事件》が起き、 フォークはこの地を去った。。 ティーンエイジ後半だった彼はいま 30代後半になっている。。 かつてこの地で過ごした少女らも同様に年を重ね、、、 新たな家族をつくり 人生の半ばを迎えている…

 ***

読み進めて、、 (このシチュエーション、、似てる…) と。。 大人になって故郷へ帰ってくる主人公の捜査官… という設定はミステリーには結構ありがちですが、、 辺鄙な土地の濃密な、しかし厄介な人間関係、、 逃げるように土地を去った主人公、、 過去の記憶の中の忘れられない《過ち》…

昨年の夏に書いた ピーター・メイ著の『さよなら、ブラックハウス』のことを想い出していました(>>読書記) 、、そうしたらなんと、 訳者さんが同じ方なのでした。。 確かに 主人公が故郷へ帰る物語でした。 あちらはシェトランド諸島の小さな島、、 こちらは広漠なオーストラリア、、 でもいろんな点で似ているのです。。 同じ訳者さんなので 文体などに似た所を感じたのか、 或は この訳者さんがこのような物語に惹きつけられるものがあって翻訳をなさったのか…

『さよなら、ブラックハウス』に感銘を受けた人なら こちらの『渇きと偽り』も興味深く読めるかと、、。 辺境の土地で暮らすことの困難や人間関係の息苦しさ、、 また、自分がその土地でティーンエイジを過ごした思い出の 決して消えない痛み、切なさ、歓び… 

 ***

主人公フォークと関わりのあった 周囲の人々についてもそれぞれが深い物語を携えて よく描かれています。
、、 ティーンエイジだった彼らも 30代後半になり、 新たな家庭や家族を持っています。 『さよなら、ブラックハウス』でもそうでしたが、 主人公の捜査官だけが独り身で… (なぜかミステリー小説では主人公は必ず恋人と破局しているか、離婚しているか、死別しているか… なのですよね)
、、 主人公フォークの人生だけが 未だ宙ぶらりんのままで…

この『渇きと偽り』の作者は 創作教室で学んでそれで書いた第一作がこのミステリーだそうです。 設定は先ほど書いたように ありがちとも言えますが、 干ばつの土地の暮らし、 人々の心の渇き、、 脇役の人物像まで、 なかなか見事に描かれています。 女性作家ですが ストーリーに妙な甘さもなく、 乾いた筆致で好感が持てました。 続編が出されるなら是非また読みたい。。


、、 主人公フォークとかつて仲良しだった ある少女の物語が深く心に残りました。。 ラストの仕上げ方も、、 見事でしたね…


それにしても、、 30代後半を迎えていまだ宙ぶらりんの人生途上にいるフォークに較べて (別に彼を否定するわけではないんです… なかなか魅力的な人でもあったし) 、、この乾いた土地で生きることを選んだ幼馴染みのとある女性、、

 「二十年後に会いましょう…」

と言い切ったあの女性… 


… 強いな、、


、、 30代後半の二十年後は 50代後半。。 その年齢になったフォークやこの女性の物語も、 ちょっと覗いてみたい… 

そんな余韻を残す良い作品でした。


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『忘れゆく男』 ピーター・メイ著 青木創 訳

上で触れた 『さよなら、ブラックハウス』の続編が 『忘れゆく男』です。

刑事フィンのその後の物語が読めました。。 『~ブラックハウス』の読書記の時に書いた (物語の最初に出てくる「女の人」と、 物語の最後に出てくる「青年」…) どうしても忘れられなかった 彼らの人生が気になっていて、、 その「彼ら」も再び出てきます。

今度の物語は ルイス島の生活というよりも、 ルイス島の老人(フィンとも繋がりのある人物)の知られざる過去の人生、、 シェトランド諸島を離れ スコットランド本島のエジンバラに実際に在った孤児院なども重要な場所として出てくるのですが、、 そんな重い歴史の物語も心に残りました。

、、 ただ、 『忘れゆく男』は是非とも 『さよなら、ブラックハウス』の後で読んでいただきたいです。 単独で読んだら 登場人物の過去からの重要な物語がわからないままになってしまうから…
(早川書房さんには これが刑事フィンの3部作の物語だということをちゃんと明記しておいて欲しいかな、、と。 そして 未刊の最終編の翻訳をぜひとも… フィンの根本の謎が不明のままで気になります)

 ***



『凍りつく心臓』 講談社文庫  ウィリアム・K・クルーガー著  野口 百合子 訳
『狼の震える夜』 同上


こちらは アメリカミネソタの森と湖の自然を舞台に 元保安官コークの家族やネイティヴアメリカンの居留地の人々などが暮らす地域での ハードボイルドシリーズ。
コーク・オコナー・シリーズは7作くらいあるようです、、 また読むかも…

ただ、、 例によってちょっとダメな中年オヤジ、 家庭崩壊しつつも ここぞの時には大事な家族のために体を張って命がけで頑張るダイ・ハード的なところは いかにもアメリカンな物語かな。。


、、 今は ドイツのミステリーを読んでいます。。 今年はちょっと大戦前、 大戦下のベルリンを読もうかと…

現代史に疎いので 東プロイセン とか書かれていても全然わからない…(恥) 、、現代史を学ぶにはミステリが一番、 ですね。。
そちらの話は、、 またいずれ


本も読みたい。 音楽も聴きたい。。 TVも見なくちゃ、ね。
、、そして 美味しいごはんを つくらなくちゃ…


… リフレッシュしてね。  どうぞ良い週末を…