prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「暗黒街」

2006年03月05日 | 映画
ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督、ジョージ・バンクロフト主演の1927年作品。ベン・ヘクトがアカデミー原案賞(Original Story)。
余談だけれど、淀川長治の投稿家時代のペンネームがバンクロフトからとって「バン・黒子」。

顔役と部下と情婦との三角関係の綾のつけ方がヤクザ映画的な奇麗事で(逆か)、現実にはおよそありそうではないのに映画的には濃厚で魅力あり。
公開前はコケると思われていて、ヘクトは名前をクレジットから外させようとしたら大ヒットしてオスカー受賞。なんのこっちゃ。

「リオ・ブラボー」の冒頭の、無法者が痰壷に金を放り込んでうらぶれ男に拾わせようとする“手”が使われていた(逆か)。情婦の名前がフェザース(これも「リオ・ブラボー」のヒロインの名前に使われている)で、羽根を大胆にあしらった衣装がスタンバーグ趣味。
パーティのシーン、やたらとテープが使われているのもそう。牛の模型がちらっと写るのは、モーセが十戒を授かって帰ってくるまでに待てない民衆が作った偶像になぞらえているよう。

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「ウルトラ・ダラー」 手嶋龍一・著

2006年03月05日 | Weblog


元NHKワシントン支局長・手嶋龍一氏の初の小説。

北朝鮮による偽札作りといたちごっこを演じている判別機メーカーが、本物の偽札(?)を証拠として確保しようとする各国の捜査機関に伍して手に入れないと判別技術が向上せず、メーカー間の競争に負けてしまう、といったディテールが生きている。
偽札作りの目的と、そのバックにある大国の老獪な外交ぶりなどは、小説でないと書けなかっただろう。

アメリカ・ドルがとっくの昔に金との兌換を止めているのに唯一の基軸通貨のように振舞うのは、利息抜きの国債みたいなものだという指摘には、そういえばそうだと思わせる。

あらゆる局面で秘密が要求される外交にあっては、辛うじて公電を残して30年後の歴史の審判を仰がなくては外交官たる資格はない、というのは「1991年日本の敗北」にも共通する視点。
実際、金丸信が訪朝した時の記録というのはどうなっているのか。どんな約束をしてのかわかっていなければ、外交にならない。

ロシアでエイゼンシュタインの映画「イワン雷帝」のリメークが進行中というのがもっともらしくて可笑しい。
映画のロケ地を訪れるというテレビ番組の企画で潜入をカムフラージュするのに、マルセル・カルネの「北ホテル」が使われているのは、洒落だろう。
あの映画で使われたホテルは、すべてセット撮影(美術 アレクサンドル・トローネル)によるものであることはかなり有名だからだ。

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