prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ボクサー」

2006年09月21日 | 映画
IRA絡みのアイルランド紛争に巻き込まれて服役し、ボクサーとしてのキャリアを棒にふった男が、再びリングに戻って、テロとは違ったルールに則った戦いを見せる。
ただ、リングの上の戦いも、俗世間と無関係とはいかず、ボクシングの勝ち負けがドラマのクライマックスにならないのには、ちょっと戸惑った。

夫が服役している女性がぞろぞろいるというあたり、いささかびっくり。好むと好まざるとに関わらず、闘争を内から支える内助の功のシンボルみたいに扱われる悲劇。

最後の試合が、いかにもイギリス的に気取った紳士淑女が晩餐をとる中、アフリカ出身の相手と戦うというあたりが典型的にボクシングにまつわる階級・貧富・人種の差を見せた。

しょっちゅうヘリコプターがとびまわって監視の目を光らせているが、ときどきそのアングルを借りて俯瞰で地上を見下ろすと、慈悲を持たぬ神の視点ともとれる。

ダニエル・デイ=ルイスはこれが興行的に失敗したので役者を一時引退して靴職人になっていたのをスコセッシが口説いて「ギャング・オブ・ニューヨーク」でカムバックさせたが、その後二本しか出ていない(新作はポール・トーマス・アンダーソン監督 の‘There Will Be Blood’)。
もったいないが今みたいにアトラクション・ムービー全盛だと出番が少ないのは仕方ないか。
(☆☆☆★★)


本ホームページ

ボクサー - goo 映画

ボクサー - Amazon

「地獄(1960)」

2006年09月21日 | 映画
水子を救うかどうかという因果でずいぶんひっぱるなど、残酷描写のトリックが今見るとはなはだチャチなのを含めて、見世物小屋的なおどろおどろしくアヤしげな匂いがぷんぷんする。
一方で、タイトルバックにモダンなジャズなどの音楽を使っているのが面白い。

スジの方はずいぶん混乱している。善玉悪玉の程度に対応しないで唐突に死んだりするからだ。
メフィストフェレスばりに悪の道に天知茂を誘う沼田曜一が、一番手ひどく地獄の責め苦を受けるのには、ほとんど笑ってしまった。別に地獄の使いでもなんでもなかったのだね。

脚本・宮川一郎と主演・天知茂って、後のテレビの明智小五郎シリーズの組み合わせ。なるほど。

金持ちの生活を撮るカメラアングルは俯瞰が多く、逆に貧乏人のは極端な仰角が多いように思う。通常と逆ですね。それで、人物のほとんどが死んでしまい、時計が止まるカットで時計を真横にカメラを倒して撮っているのが、死んだら皆同じと止揚しているよう。
(☆☆★★★)


本ホームページ

地獄(1960) - goo 映画

地獄 - Amazon