prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
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「トリスタンとイゾルデ」

2006年11月15日 | 映画
映画の宣伝は香具師の口上みたいなものだが、もともとの「トリスタンとイゾルデ」は「ロミオとジュリエット」とは関係ない。ウソつき。

「トリスタンとイゾルデ」はもともと宮廷詩人が語り伝えたケルトの説話、「ロミオとジュリエット」の出典は複雑だが、一応十五世紀イタリアでまとめられた長々しい物語をシェイクスピアが四日間の出来事に凝集して劇化したもの。
悲恋物語というだけでごっちゃにされてはたまらない。

ジョン・ブアマンの「エクスカリバー」で、王妃グィナヴィアと騎士ランスロットとの逢引シーンで、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」を流していたが、このトリスタン映画の話はアーサー王物語の方に近い。
男女二人のドラマというより、王と王妃と家臣である騎士との三角関係のドラマなのだから。
イゾルデがそれほどの美女と思えないので、どうも気がいかない。

そして何より、媚薬が出てこない。代わりにフグの毒が使われる(ホント)。
普通、「トリスタン…」といったら、惚れ薬で結ばれて離れられなくなる男女の話として通っているはずなのに。
いったん死んで蘇えるところだけ「ロミオとジュリエット」。

製作プロダクションはリドリーとトニーのスコット兄弟のスコット・フリー社だが、監督は「ロビン・フッド」のケビン・レイノルズなのに、画調が二人の監督作みたいにやたらと凝っている。
凝り過ぎというか、凝ること自体が自己目的化している感じで、ロマンチックとも神秘的とも中世的ともつかず、何を狙っているのかはっきりしない。

アイルランドがイングランドを分割統治していたという、普通見るのと逆さまの設定。
アイルランドの雲の影が荒涼とした海岸を流れている光景は魅力的だが、この王様がまことにハリウッド的単細胞な悪役なのにがっくり。

遺体を乗せた小舟を海に流して火矢で射て火葬にする、カーク・ダグラスの「バイキング」ばりの勇壮な趣向が出てきたと思ったら火が消えてしまうのだからシケている。もっともそうでないと話が終わってしまうのだが。
(☆☆☆)


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