prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「サラバンド」

2006年11月03日 | 映画
ベルイマンはいつも同じモチーフを繰り返し変奏しているようなものだが、今回も「ある結婚の風景」の続編というだけでなく、これまでの作品の集大成的な面がある。

テーマ曲になっているバッハの無伴奏チェロ第五番の「サラバンド」は、「叫びとささやき」でも使われていた。
導入部のリヴ・ウルマンが無人の部屋を歩き回るあたりで扉が自然と閉まり、鳩時計が鳴くのは舞台での序景にあたるとともに、命が残り少ない人間の感覚を端的に示した点でやはり「叫びとささやき」を思わせ、遠く「野いちご」のモチーフとも結びつく。

音楽を介した親子の対立は「秋のソナタ」、神は沈黙しているのにも関わらず人間はすがらなくてはいられず、救いがあるのかないのかわからないまま教会の窓から光だけさしてくるのは「冬の光」、など。

同じことが繰り返される中で、若いユーリア・ダフヴェニウスの存在が目を引く。ぽってりと厚みのある下唇がいかにもベルイマン好み。
一方で、冒頭に「イングリッドへ」と献辞が出るが、故イングリッド・チューリンがユーリアの母親役で写真だけの出演を果たす。何十年も一緒に仕事(時にはそれ以上の)してきたパートナーがいる者にだけ許される、随筆的な描き方。
(後註・ベルイマンの死別した今のところ最後の夫人の名前も、イングリッドなのね)

今年の9月20日に亡くなった、これまた長年撮影を担当してきたスヴェン・ニクヴィストの不在も、いないこと自体がほとんど作品のモチーフと結びついてくる。
デジタル映像には、ニクヴィストが作り出した息を呑ませるような映像美は求めようがないが、「顔」に迫る生々しさは健在。

主人公二人、マリアンもヨハンも現在結婚相手はいないのだが、薬指に指輪をはめている。

相変わらずというか、出演者たちの演技とその引き出し方の見事さは比類がない。
(☆☆☆★★★)


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